Man On a Mission

システム運用屋が、日々のあれこれや情報処理技術者試験の攻略を記録していくITブログ…というのも昔の話。今や歴史メインでたまに軍事。別に詳しくないので過大な期待は禁物。

銃剣(バヨネット)の華麗な世界

当ブログでは、情報技術者試験を中心とするIT関係の記事が多いのですが、たまにITと全く関係ない記事を書くことがあります。
で、大体そういった記事の場合はアクセス数が少なく、俺はこの世に必要とされてないんじゃないかとか以下どうでもいいし前にも書いたので省略しますが、とにかく、今日はITと関係ない記事です。さらに、当ブログとしては珍しくやや時事ネタです。

最近、ちょっと話題になってる銃剣道の話…からは少しずれて、銃剣について。
なお、この記事はエイプリルフールに書いた記事ですので、タイトルが一部ウソになっています。具体的には「銃剣」以外がウソです。銃剣の起源や進化、現在の銃剣の担う役割などについて書きますが、華麗な世界などはありません。

銃剣道が中学の体育科目に?

当記事は、あくまで銃剣についての記事でありますが、こんな記事を書こうと思った発端は、中学校の保健体育の武術種目に「銃剣道」が加わったことです。
3月31日付の文部科学省官報で告示された、新たな「中学校学習指導要領」にて、柔道や剣道などと並ぶ形で追加されました。

中学校学習指導要領(PDF)

このことから、Twitterで賛否両論が巻き起こっている模様。

www.huffingtonpost.jpさん

賛否両論、です。一昔前なら、賛成意見はごく少数にとどまっていたでしょうから、隔世の感があります。
私なんかは、第一次世界大戦前のヨーロッパの空気感*1に思い当たって微妙な気分になったりしますが。

なお、指導要領で明示されている武道は9種目。柔道、剣道、相撲、空手道、なぎなた弓道合気道少林寺拳法銃剣道となっております。

なんで日本拳法が入って無えんだよ!」とか「空道入れろや!」とか「いや、今こそ掣圏道*2を!」とか、それぞれの立場の方は思うところがあるかもしれません。
まあ、それらの意見はともかくとして、たまたま見つけた資料によれば、銃剣道の競技人口は平成26年4月1日時点で41,592人だそうです。

第2回 武道振興施設のあり方検討会/長野県教育委員会

競技人口(PDF)

思ったよりは多いですが、武術太極拳の63,719より少なく、さらにいうと、競技人口の大半はJ隊関係者だとの指摘もあります。
J隊出身のJ党議員の働きかけとの話も聞いており、そうなると、公職にある人が自分の古巣に関係するような話を押しすすめたわけで、私としては否定的にならざるを得ません。
(とはいえ、このブログではあまり突っ込んだことには触れませんが。色々面倒なので。)

なお、銃剣道について興味のある方は、Wikiなり、以下の全日本銃剣道連盟のサイトなりをご覧ください。

HOME - 全日本銃剣道連盟 | 当連盟は 内閣総理大臣の認可を受け、平成24年4月1日より公益社団法人に移行いたしました。

個人的には、全日本銃剣道連盟の初代会長が帝国陸軍今村均大将というところが、妙なところで意外な人に出会った感です…。

銃剣とは

さて、銃剣道の話とかはこのへんにしといて、本題である銃剣の話に移ります。

銃剣(バヨネット)は、ライフルなどの軍用銃の先端に剣やスパイクを取り付け、槍のように使えるようにしたものです。
銃で撃ち合えないほど、敵と接近した際(白兵戦ですね)に敵を死傷させるために使用します。

ただし、近年は各種携行火器の性能向上のため、そこまでの近接距離で戦うことは少なく、実戦使用されるケースは稀です。
一応、1982年のフォークランド紛争で英海兵隊(の一部隊)によるアルゼンチン軍陣地への銃剣突撃が行われたりしてますが、これも弾薬、手榴弾などの携行火器を使い果たした末の銃剣突撃であり、戦史に残る程度には例外的な事象と言えます。

銃剣の起源

銃剣の起源は、17世紀まで遡れます。
当時のヨーロッパで、銃口に短剣の柄を差し込んで槍のように使う、ということが行われるようになりました。
中でも有名なのがフランスのバイヨンヌで起きた農民同士の争いで、マスケット銃*3銃口にハンティングナイフを差し込んで槍のように使ったことがあり、このバイヨンヌの地名を取って「バヨネット」と呼ばれるようになったとか。
この起源から、初期の銃剣は、柄の部分を直接銃口に差し込んで使用する方式でした。

差し込み式銃剣(メトロポリタン美術館所蔵、1685-88、イギリス)

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ちなみに、現存する最古の銃剣は1647年のフランス製で、柄と刃の長さがそれぞれ約30cmほどのものだそうです。

銃剣の普及

さて、そんな銃剣ですが、17世紀後半には、フランスの歩兵連隊に支給されるなどして普及することになります。
しかし、ただ銃を槍として使えるとかいうだけでは、なぜ銃剣が広く普及することになったのか理解できないかもしれません。

当時の銃は前装式の単発銃であり、一発撃つたびに、弾丸を装填する必要がありました。弾丸の装填にも時間がかかり、ベテラン兵でも20秒以上かかったとか。
しかも、当時はマスケット銃が主流ですので命中精度が低く、現代に比べて交戦距離が非常に近かったのです。
そのため、射撃の合間に、敵の突撃を受け打撃を被ることがありました。これに対する防御策として、槍(スピア)や長柄槍(パイク)を装備した歩兵を配置し、銃兵を守る役目を担わせていたのです。
これが、銃剣の普及により別装備の部隊を配置することなく、銃兵自らが防御できるようになりました。今まで槍を持っていた歩兵にも銃を持たせることが出来るようになるため、全体的な戦闘能力が向上するわけです。
やがては、防御のみならず、銃剣を構えて敵陣へ攻撃をかける「銃剣突撃」も行われるようになり、攻撃用武器としても利用されるようになります。
このような背景のもと、銃剣は急速に普及していきました。

銃剣の進化

差し込み式の銃剣には欠点があります。当たり前ですが、この方式では、銃剣を使用している間、銃を撃つことはできません。
また、ただ差し込んだだけですので、刺突後、引き抜こうとすると銃口から銃剣が抜けてしまう、ということがよくありました。

そこで、ソケット式銃剣が発明されます。これは、銃剣の根本に金属製の筒があり、その筒に銃の先端を差し込んで固定するタイプの銃剣です。

ソケット式銃剣のレプリカ(Amazonより)

このタイプの銃剣は、18世紀ごろから使用され始めました。
ソケット式であれば、装着したままで銃を撃てます。また、固定方式も徐々に洗練されていき、銃剣が外れてしまうことは少なくなりました。
ちなみに、銃剣と言ってますが、この当時は刃がないスパイク状の銃剣がほとんどでした。

19世紀中頃になると、従来の前装銃に代わり後装銃(先込め式と違って、銃の後ろ側から弾丸を装填出来る銃)が主流となります。
前装銃では、「込め矢」と呼ばれる弾丸装填用の道具を銃口下部に収納していたため、銃剣を直接銃口下部に装着できませんでした。
後装銃では、この「込め矢」が不要になりますので、銃口下に直接銃剣を装着できるようになります。
これにより、現在の銃剣 〜 銃剣の柄の部分の溝を、銃身に設けられたバーに差し込む形で装着する銃剣 〜 が主流となっていきます。
このタイプの銃剣は、従来のスパイク状ではなく、刃を備えた刀剣そのものの形状であり、銃から取り外した状態においては、そのまま刀剣として利用することが可能でした。
(刀剣銃剣と呼びます。)

刀剣銃剣のレプリカ(Amazonより)

銃剣の衰退

後装銃の登場により、ソケット式のスパイク銃剣から、刀剣銃剣に発達しました。
しかし、このような銃器の発達によって、銃剣は次第にその有効性を失っていきます。
19世紀後半のクリミア戦争南北戦争の頃には、銃器の火力増大により戦闘での有効性は大きく低下します。さらに、その後の日露戦争第一次世界大戦では、機関銃陣地の登場により、銃剣突撃は損害ばかりが大きく、戦果を挙げることは困難となりました。

ナイフ銃剣の登場

第二次大戦以前の銃剣、例えば日本の三十年式銃剣などでは、刀身の長さが40センチ以上におよびます。
しかし、実戦ではほとんど利用されない銃剣なのに、そんな長物を持っていくのは不合理だとして、第二次大戦ではナイフ銃剣が登場します。
アメリカのM1銃剣やドイツのM84/98銃剣などが代表で、銃から取り外すとナイフとして利用できました。
(ちなみに、私はM7銃剣を触ったことがありますが、ヒルト部に穴が空いてるだけの普通のナイフって感じでした。)
現在ではさらに発展し、例えばアメリカのM9MPBS銃剣では、野外活動に伴う様々な目的に使用できるようになりました。刃の背側で軽金属を切断できたり、鞘と組み合わせてワイヤーカッターになったり、ヒルト部(鍔)に栓抜きが付けられてたりしています。

M9のレプリカ(Amazonより)

現在の銃剣の役割

さて、第一次世界大戦以降、戦闘用としてはほとんど利用されなくなった銃剣ですが、それでも現在においてなお採用され続けています。
現在では、戦闘における使用というよりは、警備などの限定的任務における威嚇や、パレードなどの儀式での着剣といった用途が中心です。
遭遇戦など、近接戦闘となる機会は現代戦においてもあり得ますので、戦闘における需要が全く無いというわけでもないのですが…。

それから、もう一つの使い道として銃剣突撃の訓練に使う、というのがあります。
本末転倒甚だしい上に、「なんだそりゃ?実戦で銃剣突撃しないのに訓練はするのか」と言われそうですが、実はこれが一番重要な使い道かもしれません。
実戦での銃剣突撃の有無はさておき、「精神力を鍛え」「攻撃性をつちかう」ためには銃剣突撃訓練が効果的であるため、今も各国軍隊で訓練が行われています。
特に米海兵隊などでは、かなり重要視されているようです。
私は「精神力」とかいう言葉が嫌いなので、もう少し具体的に(誤解を恐れずに)言い直しますと、銃剣を装着した小銃で、繰り返し標的(人形や古タイヤ)を刺突させることで、目の前に敵が現れた際、条件反射的に攻撃できるよう体に覚えこませるわけです。命のやり取りに慣れる素地をつくる、とも言えるでしょうか。
そんなわけで、歩兵の「精神力」の重要性は今後も変わらないでしょうから、銃剣突撃の訓練が無くなることも当面は無いんじゃないでしょうか。

蛇足

第一次世界大戦以降はほとんど使わなくなった、と書きましたが、第二次世界大戦に至っても、銃剣を歩兵の主力武器として戦場で多用した国があったりします。
まあ、日本のことなんですが。
補給能力が乏しく、いつも弾薬数の制約を受けがちだったため仕方ないという側面もあるんですが、結果としては多数の死傷者を出すことになりました。

ちなみに、主力武器にしてるってくらいだから、日本兵は銃剣を用いた戦闘が得意だったのかというと、そうでもないようです。
米陸軍軍事情報部の戦訓広報誌Intelligence Bulletinに、1対1の対決を避け刺突ばかり用いる、銃床打撃を知らないのか使ってこない、逆に敵の銃床打撃には対処出来ない、という旨の記述があります。
無論、これだけで判断するわけにはいかないのですが、日本側の部内報告資料「戦訓報第六号」に類似の記録があります。陸軍戸山学校*4で、米、英、カナダ兵の捕虜と銃剣術の試合を行ったところ、突きを受け流されて銃床打撃に持ち込まれ負けたものがいることが記されています。戸山学校は以上を踏まえて、敵と距離を取り格闘戦を回避すべきである、と結論しています。
まあ、体格差もありますし、格闘戦にもつれ込むと不利、というのが実情だったようです。

しつこいですが、さらに蛇足。槍術などで見られる「槍をしごく」動作ですが、重い銃剣でこれをやると、バランスを崩して取り落としたり、もぎ取られたりするとかで、銃剣術ではこのような動作は行わないよう指導していたようです。
(どうでもいいですが、現在の銃剣道でも同じく禁止の模様。)

なお冒頭で不人気を嘆いている当記事ですがなんと続編がありますので、よろしくお願いいたします。

参考文献

本記事を書くにあたり、以下の書籍を参考にさせて頂きました。

歴史群像No.98

歴史群像No.99

上記「歴史群像」の記事、【MILITARY EQUIPMENT】銃剣

歴史群像アーカイブ Vol.2

図解 日本陸軍歩兵

日本軍と日本兵

それでは今日はこの辺で。

 

*1:第一次世界大戦前のヨーロッパでは、比較的、平和な状態が長く続いたことから、戦争に対する危機感が薄れていました。また、多くの人が、戦争にロマンチック/ドラマチックなイメージを抱く傾向にありました。まあ、行き着いた先は地獄だったわけですが。

*2:現在は掣圏道掣圏真陰流

*3:銃身にライフリングが施されていない(滑腔式)、先込め式歩兵銃。ライフル銃と比べて命中精度が悪い。

*4:各種歩兵戦技などを教育する陸軍の学校