前回記事では、アメリカの対戦車兵器、M1ロケットランチャー通称「バズーカ」を取り上げました。
今回は、バズーカと同時期に開発されたドイツの対戦車兵器、パンツァーファウストを取り上げます。
なお、パンツァーファウストという名前ですが、こちらは「パンツァー」が戦車、「ファウスト」が鉄拳を意味しています。
続けてみると「戦車鉄拳」。まあ、なんとなく言わんとしていることはわかります。ちなみに、鹵獲した米M1バズーカをコピー参考につくった対戦車兵器「パンツァーシュレック」は「戦車脅威」*1。
パンツァーファウスト概要
さて、パンツァーファウストはバズーカより知名度が低いので、その概要から。
照準器を引き起こした状態
パンツァーファウストは使い捨て式の対戦車兵器です。
先端の膨らんだところが砲弾(の一部)で、弾頭は成形炸薬弾となっています。
(成形炸薬弾の詳細については、前回記事をご覧ください。)
発射時は、棒状の部分を脇に挟んで構えます。
発射直後のパンツァーファウスト
なお、照準については、照準器(棒から飛び出ている部分)に開けられた穴から弾頭の頂点を見て合わせるという簡素なものとなっています。
(照準器に開けられた穴が照門、弾頭の頂点が照星の役割を果たすわけです。)
パンツァーファウストは構造が単純なこと、対戦車兵器としての有効性、簡単な使用説明を受ければ誰にでも(老人や子供でも)使えることから、大量に生産されました。
例えば、上記発射時の写真の射手は、軍に属していない60歳までの男性を徴用・編成した国民突撃隊員です。
なお、パンツァーファウストはバズーカと異なり「無反動砲」です。
バズーカは「砲」ではなくロケットランチャー(ロケット発射器)であり、ロケット弾自体の推進力で発射されます。
これに対し、パンツァーファウストは発射筒内に装填された発射火薬により砲弾が撃ちだされます。発射時には、反動を相殺するため後方に燃焼ガスが噴出する(バックブラスト)ので、巻き込まれないよう注意が必要です
パンツァーファウストの種類
最初に量産された「パンツァーファウスト30」は、射程30m、装甲貫徹力は最大140mmでした。
後に弾頭直径を100mmから150mmに大型化したものも登場し、そちらは最大200mmの装甲貫徹力がありました。
(当時存在していたほとんどの戦車を撃破可能でした。)
しかしながら、使用するには有効射程の30mまで戦車に接近する必要があり、さらにこの距離では射手自身も爆発に巻き込まれかねません。
(ちなみに、ソ連軍が歩兵を戦車の護衛に付け始めると*2、なおさら接近が困難になりました。)
そのため、射程延長の要望が強まり、1944年夏には射程を60mに延伸した「パンツァーファウスト60」が、1944年11月には射程100mの「パンツァーファウスト100」が登場します。
さらに、1945年2月には射程150mの「パンツァーファウスト150」も登場しますが、実戦部隊への配備はごく少数にとどまったようです。
なお、試作のみにとどまったものの「パンツァーファウスト250」という、射程250mのモデルも開発されました。この250は従来モデルと違って使い捨てではなくなり、発射薬と弾頭を再装填して、何度でも使用できるようになっていました。
戦後、このパンツァーファウスト250をもとに(というかコピー)、ソ連がRPG-2を開発します。このRPG-2が、後に発展してRPG-7となりました。
最後に
パンツァーファウストは、終戦までに560万発以上が使われたといわれています。
まさに、第二次大戦における代表的な対戦車兵器といえるのではないでしょうか。
ちなみに、現在も「パンツァーファウスト3」というパンツァーファウストの名を冠した対戦車兵器があったりします。
開発は独ダイナマイト・ノーベル社で、最大射程は300m、700mm以上の装甲貫徹力を持ち、1992年よりドイツ連邦軍に配備されています。
なお、パンツァーファウスト3は、「110mm個人携帯対戦車弾」という名前で陸上自衛隊でも採用してます。
九九式破甲爆雷をくっつけたり火炎瓶を投げたりして戦車と戦わせていた「人命は使い捨て式」な旧軍と比べると、驚異的な進歩と言っていいのではないでしょうか。まあ、比べる対象がひどすぎる感はありますが。
*1:パンツァーシュレックは最大有効射程150m、装甲貫徹力は最大200mmです。口径60mmの米M1より大口径(88mm)なため、装甲貫徹力は大きいのですが、その分大柄で使い勝手が悪く、パンツァーファウストほどには普及しませんでした。
*2:以外に思うかもしれませんが、戦車が十分な戦力を発揮するには歩兵の掩護が必要となります。戦車は外部視界が狭いため、死角から忍び寄る歩兵の肉薄攻撃に弱く、単独では以外と脆弱なのです。