Man On a Mission

システム運用屋が、日々のあれこれや情報処理技術者試験の攻略を記録していくITブログ…というのも昔の話。今や歴史メインでたまに軍事。別に詳しくないので過大な期待は禁物。

【戦争と兵器】弾道ミサイルの燃料【液体燃料と固体燃料】

弾道ミサイルの基礎知識について語る、その3です。。
ちなみに、前々回は弾道ミサイルの概要、前回は弾道ミサイルの命中精度について書いてます。

【戦争と兵器】弾道ミサイルとは【基礎の基礎】 - Man On a Mission

【戦争と兵器】弾道ミサイルの命中精度【半数必中界(CEP)】 - Man On a Mission

今回は、弾道ミサイルにおける燃料、液体燃料と固体燃料の違いについて。
とはいえ、あまり細かい話はしないので、詳細を知りたい方は専門書などをお読みください(…というか、ごく簡単なことしか触れません)。

ミサイルの推進装置

一口にミサイルといっても、様々なミサイルが存在します。主に戦闘機が搭載する空対空ミサイルや、最近少し話題となった巡航ミサイルなど。
これらのミサイルが飛んでいくには、通常、動力ー推進装置ーが必要となりますが*1、ミサイルで使われる推進装置はロケットエンジン(またはロケットモーター)とジェットエンジンに大別されます。概ね、空対空ミサイルなどの多くのミサイルにはロケットモーターが使用され、巡航ミサイルジェットエンジンを用います。
短時間で高速に加速できるものの燃焼時間の短いロケットエンジン/ロケットモーターに対し、ジェットエンジンは長時間の燃焼が可能です。そのため、短時間で加速しなければならない空対空ミサイルなどはロケットを、長時間の飛行が要求される巡航ミサイルではジェットエンジンを使用しているわけです。中にはロケットとラムジェットエンジンを併用して高速性と長射程の双方を実現しようとするもの(ロシアのKh-31とか)もありますが、ラムジェットとかについてはいつか機会があれば。

さて、当記事では弾道ミサイルを取り扱いますが、弾道ミサイルではロケットエンジンまたはロケットモーターが用いられています。
なお、ロケットエンジンとロケットモーターの違いですが、一応、液体燃料を用いる場合は「ロケットエンジン」、固体燃料を用いている場合は「ロケットモーター」といわれることが多いです。
では、液体燃料と固体燃料で何がどう違ってくるかを、次節にて。

液体燃料ロケットと固体燃料ロケット

少し前置きを。
人工衛星を打ち上げたりするロケット、いわゆる「宇宙ロケット」と、弾道ミサイルは、ほとんど同じ技術が使われています。
人によっては、宇宙ロケットと弾道ミサイルの違いは「弾頭の有無だけ」ということも。
そんなわけで、弾道ミサイルの燃料の話は、宇宙ロケットにも通ずることだったりします。

さて、ロケットに積み込まれる燃料には液体のものと固体のものがあり、液体の場合は液体燃料ロケット、固体の場合は固体燃料ロケットと呼びます。
大気中から酸素を取り込んで使うジェットエンジンと異なり、ロケットでは酸素も自前で持っていかなければなりません。そのため、燃料とあわせて酸化剤が必要となります。
液体燃料ロケットでは、燃料と酸化剤のそれぞれをタンクに充填します。これに対し、固体燃料ロケットでは、あらかじめ燃料と酸化剤を混ぜあわせたものを積み込んでいます。
ちなみに、燃料と酸化剤をあわせて推進剤といいます。

それでは、以下、液体燃料ロケット、固体燃料ロケットについての説明。

液体燃料ロケット

液体燃料ロケットは、液体水素や炭化水素などの液体燃料と、液体酸素や四酸化二窒素などの酸化剤を、推進剤として使用します。
燃料・酸化剤は別々のタンクに詰めておき、これらを燃焼室に送り込み混合・燃焼させます。この燃焼により発生した高温・高圧ガスはノズルから外部へ噴出され、これにより生じた反作用でロケットは推進力を得ることとなります。
(なお、推進剤を燃焼室へ送る方式により加圧式とポンプ式に大別されますが、面倒なので当記事では触れません。興味のある方は、ロケットの科学などをどうぞ。)

液体燃料ロケットは、タンクから送り出す推進剤を調節することで、細かな推力制御が可能となります。また、一度着火すると燃え尽きるまで止まらない固体燃料と違って着火・消火を繰り返すこともできます。さらには、ロケットを大型化しても強力な推力を得やすいという利点があります。

反面、推進剤供給や混合・燃焼に用いる機器など、どうしても構造が複雑化するデメリットがあり、開発期間/開発コスト、品質管理や保守においては不利となります。
これらの点は、宇宙ロケットはもちろん、軍用としても問題になってきます。特に軍用ともなれば信頼性が重視されるため、品質管理や保守整備が大変というのは非常に好ましくない特徴といえるでしょう。

液体燃料ロケットでは、燃料や酸化剤の特徴もやっかいです。
初期の軍用ロケットでは燃料に灯油が主成分のケロシン、酸化剤に液体酸素が使用されていました。
液体酸素はマイナス183度という低い沸点を持つため、ロケットタンクへの充填は発射直前でなければなりません(さもないとどんどん蒸発してなくなってしまいます)。しかし、充填には30分以上かかるので、即時発射には適していません。さらには有機物と混合すると爆発的に燃焼するという嬉しくない性質もあります。
後には、保存のきく推進剤として燃料に非対称ジメチル・ヒドラジンヒドラジンの混合物、酸化剤には四酸化窒素を使用することで、あらかじめ充填しておくことも可能となりました。
この推進剤は両者を接触させただけで自然に燃焼を開始するという特徴(ハイパーゴリック性)があり、これはロケット機構の簡素化からすると望ましい性質なのですが、四酸化窒素は極めて腐食性が強く長時間タンク内に充填したままの状態だと、タンクの腐食による爆発事故を起こす危険がありました。実際にこの推進剤を採用していたタイタンII型ICBMでは、何度か爆発事故を起こしています。
余談ですが、北朝鮮弾道ミサイル「ムスダン」は非対称ジメチル・ヒドラジンと四酸化窒素が推進剤に用いられているようです。非対称ジメチル・ヒドラジンも四酸化窒素も毒性の強い物質であり、2016年5月31日の発射実験における失敗では、発射車両付近にいた要員が重症を負ったとみられる、なんて話が韓国の聯合通信で報道されてました。

固体燃料ロケット

固体燃料ロケットは、グレイン(塊)と呼ばれる固体推進剤を用います。これは燃料と酸化剤を混ぜあわせて固めたものです。
固体燃料ロケットでは、固体推進剤の燃料容器が燃焼室も兼ねることとなり、構造が簡素化できます。
ちなみに、酸化剤は過塩素酸アンモニウムの微小粉末、燃料にはアルミニウム粉末を添加したブタジエン系合成ゴムを用います。

固体燃料ロケットは、貯蔵がきき、整備も簡単、さらに迅速に発射が可能という、兵器としては好ましい性質を多く持っています。
ただし、一度点火すると中断したり再点火したりできません。
また、ロケット構造の大半は固体燃料の収納容器(兼燃焼室)となりますが、これはロケットを大型化した場合、ロケットの大部分を燃料燃焼時の高温・高圧に耐える頑丈なものにする必要が生じことを意味します。そのため大型化すると重量が増し、効率が低下します。

最後に

ついでの余談。
液体燃料ロケットで、最も燃費の良い組み合わせとして、燃料に液体水素、酸化剤には液体酸素、というものが挙げられます。例えば、日本のH-IIロケットはこの組み合わせです。
しかし、燃料・酸化剤いずれも常温保管はできませんので、軍用ロケットには向いていません。
(液体水素の沸点はマイナス252.6度、液体酸素はマイナス183度です。)

 

 

*1:ごく一部ですが、飛行のための動力を持たない「ミサイル」もあります。米AGM-154「JSOW」とか。