Man On a Mission

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【戦争と兵器】弾道ミサイルと潜水艦【SLBM】

弾道ミサイルの基礎知識について語る、その6です。
最近、弾道ミサイルについての記事が続いてますが、飽きてきたのでそろそろ終わります。多分、次回くらいで終わり。
今回の記事は、潜水艦発射弾道ミサイルSLBM)について。

ちなみに、前回までの記事は以下の通り。

【戦争と兵器】弾道ミサイルとは【基礎の基礎】 - Man On a Mission

【戦争と兵器】弾道ミサイルの命中精度【半数必中界(CEP)】 - Man On a Mission

【戦争と兵器】弾道ミサイルの燃料【液体燃料と固体燃料】 - Man On a Mission

【戦争と兵器】弾道ミサイルの軌道【ロフテッド/ディプレスト】 - Man On a Mission

【戦争と兵器】弾道ミサイルの発射プラットフォーム【TEL/潜水艦】 - Man On a Mission

弾道ミサイルと潜水艦

前回記事でも書きましたが、ICBMなどの弾道ミサイルを使用する場合、報復攻撃を低減させるため、同時に敵方のICBMや関連施設を破壊することが望まれます。
逆に撃たれる側としては、せっかくの(?)ICBMなのに敵方ICBMの攻撃で潰されたのでは、たまったものではありません。これでは相互確証破壊もクソもなくなってしまいます。
そこで、敵方の先制核攻撃で破壊されない核攻撃能力を保持することが重要となってきます。

核攻撃能力の生残性を高める方法としては、TEL(輸送車兼用起立式発射機)などの移動発射車両で弾道ミサイルを運用する方法や、潜水艦による弾道ミサイル発射があります。
今回記事は、後者の潜水艦による弾道ミサイル発射についてですが、これは通常、原子力潜水艦により運用されます。移動発射車両による弾道ミサイル運用よりも高い生残性を得ることができ、「最強の兵器」なんて呼ばれることも。
なお、潜水艦から発射する弾道ミサイルのことをSLBM(Submarine Launched Ballistic Missile)と呼びます。

SLBM原子力潜水艦

SLBMの強みはその秘匿性にあります。海中に潜み移動できることから、敵の先制攻撃により破壊される可能性が小さい点を買われて生み出されたものであり、そのため前述の通り、原子力潜水艦による運用が原則となります。

…などと書きましたが、なぜ原子力潜水艦でなければならないかについては、もう少し説明が必要でしょうか。
原子力を用いない潜水艦、つまり通常動力型の潜水艦では、大抵ディーゼルエンジンとバッテリーの組み合わせによる推進機関を採用しています。
ディーゼルエンジンの駆動には空気が必要となりますので、潜航中は使用できません。このため、通常動力型潜水艦では、浮上中にディーゼルエンジンを駆動させバッテリーに蓄電、潜航中はバッテリーを用いて電動モーターを動かすことで推進力を得る、という仕組みになっています。残念ながら、この方法では潜航可能な時間が制限されます。長時間の潜航はできず、1日に2時間程度、シュノーケル(外気を取り入れる吸気管)の頂部を海面上に出してディーゼルエンジンを駆動させ、充電しなければなりません(この際は海面下15メートルくらいまで浮上することになります)。

これに対して、原子力潜水艦の動力は空気を必要としません。
原子力推進機関は、原子炉で作られた蒸気でタービンを回転させることで動力を得ます。原子力潜水艦には、減速歯車や冷却材の循環ポンプによる騒音が大きいという欠点もあったりしますが、それでも潜航状態で空気を必要としないというのは大きなアドバンテージとなります。これにより、通常動力型潜水艦と異なりいつまでも海中に潜っていられるわけです。
実際には、食料等の各種補給物資や乗員の忍耐力の関係から「ずっと潜航」なんてわけにはいきませんが、それでも2〜3ヶ月程度の連続潜航が可能です。
(余談ですが、「乗員の忍耐力」を保たせるために戦略ミサイル潜水艦には高い居住性が求められます。ソ連/ロシアのタイフーン級にはサウナやスポーツジムがあるという話なんかは有名ですね。)

ちなみに、近年は通常動力型潜水艦でも空気隔絶型推進装置(AIP)を用いて潜航可能時間を延ばした艦が登場しており、例えば海上自衛隊のそうりゅう型やスウェーデン海軍のゴトランド級スターリングエンジンの搭載により大幅に連続潜航時間を増大させています。とはいえ、そうりゅう型の連続潜航時間は2週間以上、ゴトランド級は最大3週間程度と、原子力潜水艦には及びません。

長くなりましたが、つまるところ通常動力型潜水艦ではたびたび浮上が必要となりせっかくの秘匿性も限定的なものとなるため、SLBMでは、長時間の連続潜航が可能な原子力潜水艦を発射プラットフォームに採用している、ということです。

SLBMあれこれ

ここからは、SLBMの特徴やら運用方法やらについて少々。

SLBMの条件

SLBMは潜水艦で運用されることから、その望まれる性質が地上発射型とは少々異なってきます。
まず、ミサイルの燃料は固体燃料が望ましいです。液体燃料は危険で取り扱いに手間がかかるためです。このためアメリカのSLBMは全て固体燃料式となっています。とはいえ、ロシアでは液体燃料式のものもあり、必ずしも固体燃料に限られるわけではありません。

また、潜水艦からミサイル発射を行う場合、ミサイルが発射管内にある段階でブースターに点火してしまうと事故を起こしやすく非常に危険となります。そのため、通常はミサイルを発射管から撃ち出して、その後ブースターに点火するという仕組みになっています(コールドローンチ方式)。
具体的には、ミサイル発射管の扉を開いた時に流入する海水と高圧空気発生装置により生成される圧縮空気を用いて発射管からミサイルを射出、ミサイルが海面から出たところで第一弾ブースターに点火します。
ちなみに、弾道ミサイルが発射可能な深度は海面下20〜40メートル程度です。

発射時の手順

発射時の手順についても少し。
潜航している戦略ミサイル潜水艦への発射指令は、ELF(極超長波)での通信にて行われます。戦略ミサイル潜水艦が潜むのは海面下300メートルかそれ以上の深度となりますが、この深度では通常潜水艦との通信に使われるVLF(超長波)が届かないためです。
(なお、ELFで送られる通信文は受信に時間がかかるため、指令はごく短いものが送られます。)
指令は「緊急行動指令(EAM)」とされ、受信すると直ちに第一非常警戒態勢が敷かれます。
この後、暗号化された通信文の復号と、その復号した命令が本物であるのか、艦長、副長、暗号解読担当士官2名の計4名により確認がなされます。
(確認は、通信文とあらかじめ艦内の特別室に置かれている命令書のコードの照合により行われます。)
命令が真正であることが確認されると、乗員への説明や戦闘配置、士官への状況説明などを経て、ミサイルの発射準備に移行することとなります。

なお、ミサイル発射では、2種類の発射用キー、発射用トリガーを必要とします。
2種類ある発射用キーのうち、1種類は艦長が携帯する発射管制盤用、もう1種類は各発射管制コンソール用となっています(後者は発射管それぞれにキーがあります)。
発射管制盤用のキーは特別室の保管庫に、後者の各発射管制コンソール用キーは発射管制センターの保管庫に格納されていますが、各発射管制コンソール用キーの保管庫の暗証番号はミサイル管制士官にしか知らされず、2人立会のもとで取り出されます。
誤発射などを避ける仕組みが取られているわけですね。ちなみに、ミサイルの発射についても艦長と副長の同意が必要と定められています。

SLBMの命中精度

SLBMには、地上発射型弾道ミサイルより命中精度(CEP)が良いものがみられます。
これは、天体により位置観測を行う恒星天測機能、スタートラッカーと呼ばれる天文航法装置がついているためです。これは飛翔中に特定の天体を観測して、その方向と角度から現在のミサイル位置を計算するものです。
SLBMトライデントD-5なんかが挙げられ、射程1万2000km、CEP90メートルといわれています。他にもロシアの「原子力戦略用途水中巡洋艦*1」ボレイ級に搭載されるR-30ブラヴァーなんかも恒星天測装置が搭載されてるようです。

 

 

*1:戦略ミサイル潜水艦のこと。ロシアの艦種名は重航空巡洋艦だの重原子力ロケット巡洋艦だの、毎度かっこいいですね。中二病的に。