Man On a Mission

システム運用屋が、日々のあれこれや情報処理技術者試験の攻略を記録していくITブログ…というのも昔の話。今や歴史メインでたまに軍事。別に詳しくないので過大な期待は禁物。

【フランス革命】フランスと徴兵制【ナポレオン】

本日は、一応、時事ネタからの導入となります。最初にちょっと話題になった仏マクロン大統領の「徴兵制復活(したい)演説」について。

トゥーロンといえば、ナポレオンが初めに名を上げた場所ですね

当ブログでは、以前に日本における徴兵制について記事を書いたことがあります。

oplern.hatenablog.com

昨日、上記の記事が普段より多くアクセスされていたのですが(10倍くらい)、どうも原因はフランスにおける徴兵制復活(させたい)ニュースのようです。

www3.nhk.or.jp

フランスのマクロン大統領が、19日に仏トゥーロンにて「徴兵制」復活(を目指す)という表明をしたとのこと。
これは大統領選挙時に掲げていた公約に基づくもので、公約上の復活理由としては「相次ぐテロの脅威に備えるためや国民の団結を強めるため」であり、対象は18〜21歳の男女、さらに兵役義務は1ヶ月というものでした。
兵役1ヶ月では大したこともできないでしょうから、これを「徴兵制」というかどうかは異論が出てきそうです。
(この「1ヶ月」という期間に限定されるのか、はたまた当該期間後も召集に応じる義務があるのかによっても異なってきますが。)
また、現時点では「そういうつもり」でいるということを表明しただけであり、実際に実現されるかはわかりません。
(ちなみに、大統領選挙時には、マクロン以外に他候補者も兵役義務や奉仕義務を挙げており、それらと比べるとマクロンの提示した1ヶ月は短いほうです。)

フランスでは、18世紀のフランス革命から徴兵制が始まりましたが、2002年に廃止となっていました。上記に述べたとおり、かなり微妙な路線の「徴兵制」っぽいので、これを復活というのは(現段階では)あまり適切で無いかもしれません。
なお、意外と最近まで徴兵制が続いていたことに驚く声も多かったようですが、西欧諸国では2000年代初頭まで、割と多くの国が徴兵制を採用していました。ドイツなんかは2011年まで徴兵制度が存続してます。
余計な上にニッチ層にしか通じない余談ですが、古いHR/HMファンの方は、欧州勢がよく兵役義務だか代替の奉仕義務だかで一時的にメンバーが抜けたとかいう話に馴染みがあるかもしれません。たしかメジャーになる前のブラインド・ガーディアンが奉仕義務についたとか、更に古くはEUROPEのジョン・レヴィンが兵役で抜けたりとかがあったと思います。うろ覚えですが。

閑話休題
私は当該ニュースは見ていたものの、まさか、これが原因で当ブログ記事のアクセス数に影響が出るとは思っていませんでした。
なにせ、ところは海外フランス、大統領が「復活させたい」と表明しただけ、公約上の兵役義務期間は1ヶ月というニュースです。
これが日本で反響を呼ぶということは、(私の予想に反して)わりかし多くの方が、「徴兵制復活」を身近な脅威と感じているということなのかもしれませんね。

ところで話は変わりますが、当ブログでは時事ネタに関係する記事の際には、微妙にずれた題材を取り上げるようにしています。「銃剣道が中学校の体育科目に」という時事ネタの際には銃剣の歴史について、2017年の国難の身勝手衆議院選挙の際には最高裁判所裁判官国民審査についての記事を書きました。
(理由は特にありませんが、強いて言うなら長谷川哲也さんのナポレオンが、雑誌での巻頭カラー時、ほぼ必ずグロい絵を持ってくるのと同じ感じです。多分。いや長谷川先生がなぜそんなことをしているかは私も知りませんけど。)
そういうわけで、今回も微妙に話題をずらして、以降はフランス革命戦争における徴兵制度について簡単に。

フランス革命政府の徴兵制

先に少し述べたとおり、フランスにおける徴兵制はフランス革命政府の軍制改革に始まります。
1789年7月に起こったフランス革命は、周辺各国の反発を買い*1、武力干渉を引き起こしました。
これに対し、フランスは当初、従来の常備軍に加えて国民志願兵を組織して戦います。

当時のフランスの敵である第一次対仏同盟は、1792年時点でプロイセンオーストリア、1793年にはイギリス、スペインが加わり勢力を増すこととなります。フランス軍は1792年末時点では連合軍相手に有利な立場にあったものの、戦争に勝つためには兵力不足を解決する必要が生じていました。
このような状況のなか、1793年2月には30万人動員の法令が、後にはさらに強権的な総動員法が成立します。後者はモンターニュ派の恐怖政治下で成立しており、これによりフランスは100万人単位の軍隊を保有することとなります。
この総動員法は、「敵が共和国の領土から追い出されるまで」とされており、臨時的な徴兵制度といえるものですが、さらに後、1798年に近代最初の本格的徴兵制度というべき、ジュールダン・デルブレル法が制定されます。
ジュールダン・デルブレル法では、満20歳から25歳までのフランス人男子すべてに強制徴用による兵役義務を課しています。これにより、毎年、恒常的に兵士を供給する制度が確立されたこととなりました。

徴兵制による国民軍は、傭兵軍よりも少ない費用で多くの兵力を維持でき、また兵士を補充することも容易になったので、(限度はあるものの)戦場において損耗を恐れずに決定的行動をとることが可能となります。

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ナポレオン-獅子の時代-より

フランス革命戦争において頭角を現したナポレオン・ボナパルトは、国民軍を率いて決戦戦争の戦略と戦術を確立していくこととなりますが、それについてはまた別の機会に。

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ナポレオン-獅子の時代-より

最後に

当該ニュースについてはTwitter上でもそこそこの反応が見られました。私が見た範囲に限りますが、こういった徴兵制の話になると、なにやら「日本で徴兵制復活はありえないよ」派がやたらと感情的・攻撃的になるような気がします。
現時点の日本で徴兵制復活というのはあまり可能性が高い話ではないのですが、それでも「ありえない」と断定して切って捨てるのはいかがなものかと思ったり。

日本は現在、軍事の扱いについての転換期であると私は考えていますし、また、少子化というおそらく解決しないであろう問題をも抱えています。
現時点では可能性が低くとも、今後はどうなるかわかりません。以前には宗主国同盟国のアメリカ様が「同盟国を活用する(大意)」なんてことも言ってましたし、日本政府のお偉いさんが「アメリカの若者が血を流しているのに云々」とか意味不明なことも言ってましたね。あと、徴兵は合理的じゃないとかいう意見もよく聞かれますが、政府が必ずしも合理的な判断をするわけではないのは皆様ご存知の通り(「大東亜戦争」とか称した巨大な前科もありましたね)。
まあ、少なくとも思考停止せず、ちゃんと見てちゃんと考え続ける必要があると思います。

 

 

*1:反発の理由については、君主専制主義の打破を目指す自由平等主義が自国へ波及することを恐れた、という見方が一般的です。しかしながら利権衝突として見る向きもあり、プロイセンは北部ドイツへの関心、イギリスはアメリカ独立戦争で失われた失地を他地域の失地回復で補填したかったということが指摘されています。まあ、戦争の勃発には多くの思惑や事情がからんできますので、単純に「こうだからこうなった」と言うのは難しいのですが。