Man On a Mission

システム運用屋が、日々のあれこれや情報処理技術者試験の攻略を記録していくITブログ…というのも昔の話。今や歴史メインでたまに軍事。別に詳しくないので過大な期待は禁物。

【日本陸軍】私的制裁の種類【新兵イビリは蜜の味?】

以前、日本陸軍における兵営生活の最小単位である内務班についての記事を書きました。

oplern.hatenablog.com

内務班は、平時編成における兵士の生活の場となりますが、そこでは日夜めくるめく私的制裁が行われていました。
私的制裁というのは、指導/教育という名目のもと新兵・下級兵に対して行われるイビリやイジメ、体罰のことです。
内務班においては、主に入営2年目の兵士(二年兵とか古年兵と言います)が、入営1年目の兵士(初年兵)に対して振るっていました。

実のところ、私的制裁については以前にも取り上げたことがあります。

oplern.hatenablog.com

上記の記事では、ビンタに代表される体罰と、それに対する兵士たちの述懐を中心に取り上げました。
しかし、私的制裁は体罰のみに限定されるわけではなく、初年兵に屈辱的なことをやらせる、いわば精神的な制裁も多くありました。
まあ、端的にいうと私的制裁はイジメや体育会系的イビリと類似の行為というか本質は同じですので、それらにみられるようなものが私的制裁にもあったわけです。

本日の記事は、そういった私的制裁の種類について代表的なものを取り上げてみる企画です。

私的制裁の動機

さて、私的制裁の種類を挙げる前に、一応加害者側古年兵側の私的制裁を行う動機について触れておきましょう。
私的制裁を振るう原因の多くは、「初年兵が古年兵に対して礼儀を失した」場合や、「初年兵の任務遂行が不十分と感じた」場合です。

前者「初年兵が古年兵に対して礼儀を失した」場合の具体例としては、敬礼を忘れたり、古年兵に対する態度や言動が気に食わなかったということが挙げられます。
非常に狭量な感じですが、舐められたらおしまい、みたいな感覚もあるのかもしれませんね。

後者「初年兵の任務遂行が不十分と感じた」場合の具体例については、武器の手入れが不十分で汚れがあったとか、被服の返納で不備があったとかが挙げられます。怠けたり横着したりで不備が出たケースとかもありはしますが、まあ、原因関係なくとにかくミスがあったら私的制裁、ということが多かったようです。

むしゃくしゃしてやった。今も反省してない

なお、上記の動機はまだマシな部類で、他にも「偉ぶりたかった」とか「自分が初年兵の時にもやられたから」なんて動機もあります。
最初に挙げた「まだマシ」な二つも、私的制裁を正当化する理屈をくっつけただけとも思えるので、そう考えると「偉ぶりたかった」から私的制裁した、とかの方がまだ潔い(?)のかもしれませんね。、
なお、私的制裁の動機の中には「鬱憤ばらしで」私的制裁したという自分に正直すぎるものもあります。
「鬱憤ばらしで」私的制裁を行うケースの具体例としては、上官に叱られたとか進級が遅れたとかいうのが挙げられるのですが、叱られたのは初年兵がちゃんとやってなかったから、なんて曲解して自己正当化する方々も多かったようです。

私的制裁の種類

さて、本題の私的制裁の種類に移りましょう。
ざっと以下のような私的制裁が代表的です。

  • ビンタ
  • 花魁
  • 魚の絵
  • チャンチュー
  • 安全装置
  • 自転車
  • 鶯の谷渡
  • 洗矢見習士官
  • 三八式歩兵銃殿
  • カンカン踊り
  • 最敬礼
  • 整頓崩し

以下、これらの私的制裁の詳細について。途中でウンザリするかもしれませんが。

ビンタ

最もスタンダードな私的制裁です。そのまんま、平手による殴打が一般的ですが、他にも拳による殴打も行われました。【戦争を知ろう】新兵訓練と私的制裁【日本軍】でも取り上げたとおり、酷い時には股間を蹴ったりといったこともあったようです。
なお、ちょっと凝ったものとしては「対向ビンタ」というものがあります。これは初年兵同士を向かい合わせて互いにビンタさせるものです。

花魁

内務班の銃架から小銃を1〜2丁外して隙間を開け、その箇所を遊郭の飾り窓と見立てます。私的制裁を受ける初年兵は、遊女役として廊下を通る二年兵に対し「飾り窓」を通して「兵隊さん、寄ってらっしゃい」等と声をかけます。以上。

魚の絵

枕カバーが汚れていた場合に行われる私的制裁です。枕カバーにチョークで魚の絵を書き、洗濯の労力を増やします。さらには、この枕カバーを頭に被ったり胸にかけたりして、他の内務班に挨拶に行かせる、なんてことも行われました。
またの名を「金魚」。

チャンチュー

人差し指で、初年兵の鼻の頭を弾く制裁です。
名前の由来は「チャンチュー」と呼ばれた「支那酒」から来ているそうです。アルコール度数が高く一気に飲むと鼻にくるんだとか。

安全装置

小銃の安全装置を動かす要領で、相手の鼻の頭に掌を強く押し付け左右に動かすという私的制裁です。

自転車

机を並べてその間で、初年兵が腕で体を支えながら自転車を漕ぐ動作をするもの。長時間やらされることが常で、また、時には敬礼や手放し運転など理不尽な指示が飛ぶことがあったようです。

初年兵を内務版の柱に登らせて、「ミーン、ミーン」などと蝉の鳴き声を真似させる私的制裁です。

鶯の谷渡

並べた寝台の下を初年兵に潜らせて、最後の寝台から顔を出したら、「ホーホケキョ」とウグイスの鳴き声を真似させる私的制裁です。

洗矢見習士官

小銃の手入れに使う「洗矢(あらいや)」を軍服上衣の剣釣に引っ掛けることで、帯剣した見習士官の真似をさせて各内務班を練り歩かせるものです。

三八式歩兵銃殿

小銃の手入れが不十分な場合に、小銃に対して詫びを入れさせながら長時間にわたって捧銃(ささげつつ)動作を行わせるものです。

カンカン踊り

炊事場で行われる私的制裁で、返納した食器が汚い場合に飯櫃や汁桶を頭にかぶらせてカンカン踊りを踊らせる私的制裁です。

最敬礼

炊事場で行われる私的制裁で、返納した食器が汚い場合に、調理で切り落とした魚の頭などに最敬礼を行わせるものです。

整頓崩し

初年兵の整理・整頓が悪い場合に、積んである被服・装備類を崩して内務班中に撒き散らすものです。

私的制裁、カッコ悪い。

胸糞悪ぃ。ご覧頂いたとおり、内容的には子供のイジメみたいなくだらないものが多いですね。バカが考えた感が満載。
「軍隊なんだから厳しくてあたり前だろ」とか「ミスしたら叱られるのはあたり前」だとか言うバカ方もたまにいるのですが、まあ、そんな次元の話ではない感じです。

なお、意外に思われるかもしれませんが、これら私的制裁を日本陸軍は禁止していました。
私的制裁は、自殺や脱走の大きな原因であり、特に日中戦争以降「老兵」や「弱兵」が増加するとその影響が顕著となります。
私的制裁のストレスにより抵抗力が低下し疾病の罹患率が上がったという、陸軍将校からの指摘もみられ、陸軍幹部は私的制裁の根絶を強調しました。
すなわち、指導/教育の名目で行われる私的制裁は何ら権限の根拠なく行われていたものであり、さらに私的制裁が禁止された後では明白な軍規違反でもあったわけです。

しかしながら、実情としては下級将校や下士官らは私的制裁を黙認する傾向が強く、多くの内務班では半公然に私的制裁が行われていました。
私的制裁による死亡も起きていたようですが、公文書を偽造して隠蔽することもあった模様。
ちなみに私的制裁は「学科」という隠語で呼ばれることが多かったそうです。

最後に

さて、代表的な私的制裁を挙げてきましたが、いかがだったでしょうか。
他にも、内務班内の全員に被制裁者を無視させるなど(シカトですね)が行われることもあったようで、中学生とか小学生の「未熟な社会」の負の部分を凝集した感があります。
兵役の無い時代に生まれて本当によかったなあと「平和な日本」に感謝。少なくとも今の時点では、ですが。

主な参考資料

本記事を書くにあたり、以下の書籍を主な参考資料にさせて頂きました。

写真で見る日本陸軍兵営の生活

日本軍兵士―アジア・太平洋戦争の現実