Man On a Mission

システム運用屋が、日々のあれこれや情報処理技術者試験の攻略を記録していくITブログ…というのも昔の話。今や歴史メインでたまに軍事。別に詳しくないので過大な期待は禁物。

【戦争と兵器】パラシュートの軍事利用【空挺作戦/敵地潜入】

前回の予告通り、軍隊におけるパラシュート降下についてもう少し。
前回記事では、スタティック・ライン降下とフリー・フォール降下の概要について取り上げました。

oplern.hatenablog.com

なんか、順序が逆な感じではありますが、今回はパラシュート自体の基礎知識と、パラシュートの軍事利用について。

パラシュートの基礎知識

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パラシュートは、高い場所から落下した時に、その落下速度を緩めるための道具です。

地球の重力下において、地表近くで自由落下する物体は毎秒約9.81m増速しながら落下します。これは空気抵抗などを無視した場合の話で、実際には物体の形状や表面積などの要素で速度は変化するわけですが、速度の増加に伴い空気抵抗も大きくなるので、最終的にはある一定速度に達するとそれ以上は増速しなくなります。
一例を挙げると、実際の降下による速度記録によると、高度4000メートル以下では空気密度の影響から平均落下速度は62m/sを超えることはありません。
とはいえ、この速度は落下した人間の命を奪うには十分な速度です(あたり前ですが)。

人間の場合、落下速度が毎秒5〜6メートル程度であれば安全とされています。
(それでも、毎秒5メートルで着地時の衝撃は1.3メートルほどの高さから飛び降りたのと同じくらいになりますので、パラシュート降下での着地時には衝撃を分散させるべく受け身をとります。)
パラシュートは、空気抵抗を増やして落下速度を5メートル程度にまで減少させることで、着地の際の衝撃を人間(や物資)が耐えられるようにする装置なわけですね。

なお、忘れられがちなのですが、パラシュートを開傘する際には結構な衝撃が発生します。先の高度4000メートル以下の例だと62m/sの落下速度を、開傘する短時間で5m/sに減速させようとするわけですので、大きな衝撃が生じることはご想像いただけるかと思います。この減速にともなう衝撃のことを「衝動」といいます。
とはいえ開傘時の衝動は、人間が十分耐えられる範囲内に収まるようになっていますし、パラシュートのキャノピー(主傘)自体も開傘時の衝動に耐えられるように作られています。
開傘時、キャノピーの一カ所に衝撃力が集中して破れたりせず、また着用者の身体に伝わる衝撃を緩和するような構造を持つことも、パラシュートに求められる機能なのです。

ちなみに、パラシュートには通常、良質の絹かナイロンが用いられますが、現代のパラシュートはほとんどがナイロン製となっています。ナイロンは丈夫で弾力性に富み重量が軽い上に、布同士の滑りがよいので開傘時の安全性も高いなどメリットが多いのです。
第二次大戦時までは絹が主流でしたが、梱包して時間が経つと変質したり、使用時に故障するなど問題が多く、また取り扱いも面倒でした。

パラシュートの軍事利用

さて、軍用としてのパラシュートの使用は、第一次大戦まで遡れます。当時は、観測気球に搭乗する観測員の脱出用でした。
なお、パラシュートは航空機からの緊急脱出にも用いられるのはご存知かと思いますが、第一次大戦当時は戦闘機や爆撃機パイロットはパラシュート使用を禁じられています。「攻撃精神を欠くもの」だから使用禁止とかいう理由だったようです。日本軍じゃあるまいし。
現代の緊急脱出用パラシュートは、パイロットには腰掛け式(パラシュートがシートの役目を兼ねる)が、その他搭乗員には背負式が用意されています。戦闘機なんかだと射出シートに内蔵されてます。

さて、その後パラシュートは空挺(エアボーン)作戦に使用されるようになります。1930年代前半にソ連フィンランドとの戦争にて、空挺部隊の史上初の実戦投入を行いました。
空挺作戦は、パラシュートで敵の後方に部隊を降下させ奇襲攻撃するものです。
ドイツ軍は空挺作戦の有効性に着目、第二次大戦中の1940年5月、西方作戦においてソ連が行ったものよりも大規模な空挺作戦を挙行し成果を挙げました。
これは、ベルギー・オランダ両国への電撃作戦におけるもので、ハーグ、ロッテルダムなどの主要都市やエバン・エマール要塞に対して攻撃したものです。
(パラシュート降下だけでなく、グライダーも用いられました。)
このドイツ軍降下猟兵の活躍に刺激を受け、各国は空挺部隊の創設と運用研究に本格的に取り組むこととなります。

ちなみに、日本陸海軍でも1940年より空挺作戦の研究に取り組み、海軍は1941年9月に横須賀鎮守府第一特別陸戦隊を、陸軍は1941年12月に第一挺進団という空挺部隊を編成しています。日本軍の空挺作戦への取り組みは、ドイツからの影響もさることながら南方武力行使における運用が念頭にあったようです。

なお、前回でも触れましたが、空挺部隊が行う降下は通常スタティック・ライン降下です。
詳細については前回記事を参照いただくとして、一応、簡単に説明すると、輸送機内のワイヤにパラシュートのスタティック・ライン(曳索)をつなげておき、兵員が飛び降りるとその自重でスタティック・ラインが引き出されてパラシュートが開傘する、というものです。
この降下方式は、多数の兵員や装備・物資などを短時間で目標地点に降下させるのに向いています。

今日の空挺作戦ではヘリコプターを用いたヘリボーンが主流となっているのですが、それでもなお、固定翼機からのパラシュート降下訓練は続けられています。
世界各地に大規模な部隊を緊急展開できる固定翼機による空挺作戦は、未だその有効性を失っていないのです。

パラシュートは、特殊部隊による敵地潜入にも用いられています。この場合、大抵フリー・フォール降下方式によるパラシュート降下を行います。
フリー・フォール降下についても詳細は前回記事を参照いただきたいのですが、一応、簡単に説明すると航空機から飛び出した後、しばらくは自由落下し、任意のタイミングで開傘する方式です。HAHO、HALOといった降下技術があり、グライダーのように滑空降下して距離を稼いだり、敵に探知されにくいように降下することが可能です。

なお、スタティック・ライン降下では輸送機の速度を時速180〜220kmに抑える必要があります。これは、速度が速すぎると着用者が開傘時の衝動に耐えられなくなるためです。
これに対し、フリー・フォール降下では輸送機の飛行速度が速くても降下可能です。フリー・フォール降下では任意のタイミングで開傘を行いますので、降下速度が空気抵抗などで時速200km程度に落ち着くまで自由落下してから開傘することで衝動を小さくできるのです。

最後に

前節にて、固定翼機からのパラシュート降下は未だ必要である旨書きましたが、とはいえ在日な某国軍様には、市街地近辺で訓練するんじゃねえ、と厳重に突っ込むべきだとは思います。
日本における米軍様の活動に関しては、なぜか日本国民自身が、被害者である日本国民に我慢させようとする謎現象があったりもしますが。この辺の自縄自縛的マゾヒスティック体質は大日本帝国時代とあまり変わってませんね…。
「正義を行えば、世界の半分を敵に回す*1」なんて言葉がありましたが、日本では「権利を主張すれば、日本の大半を敵に回す」のです。なんだこれ。

 

 

*1:なお、「紅い眼鏡」では「正義を行えば、世界の半分を怒らせる」でした。