Man On a Mission

システム運用屋が、日々のあれこれや情報処理技術者試験の攻略を記録していくITブログ…というのも昔の話。今や歴史メインでたまに軍事。別に詳しくないので過大な期待は禁物。

【戦争と兵器】パラシュートと射出座席【戦闘機からの脱出】

ここしばらく、軍隊におけるパラシュート利用の記事を書いています。
前回までは、主に空挺作戦などでのパラシュート降下について触れてきました。
パラシュートは他にも、航空機からの脱出などで用いられますが、戦闘機など比較的小型の軍用機では射出座席と併せて使用されます。

今回記事は、この射出座席とパラシュートについて。

航空機からの緊急脱出

さて、航空機が墜落必至となった時、機体から脱出してパラシュートを用いて降下するということは、第一次世界大戦から行われていました。
(一部に「戦闘機や爆撃機からのパラシュート降下は攻撃精神を欠くものなので禁止」とかいう、わけのわからない方々もいたようですが。)
第一次大戦当時の航空機はオープンコクピットであり、前面にウインドシールド(風除け)を備えている程度で「屋根」はありません。
そのため脱出時は、コクピットより這い出して、主翼と水平安定板の間の空間を狙って飛び降りることで脱出を行います。なお飛び降りた後は、パラシュートが機体に引っかからないくらいまで落下したところで開傘索(リップコード)を引いてパラシュートを開きました。
ちなみに、まだ機体のコントロールがきく状態では、背面飛行に移りそのまま真下の空中に飛び出す、なんてこともあったようです。

第二次大戦に至る頃には、コクピットが風防で覆われるようになったので、飛び降りる前にキャノピー(風防の天蓋部分)を開けるか、緊急投棄レバーなどを操作してキャノピーを風圧で吹き飛ばすといった手順が必要となります。
(ちなみに風防はウインドシールド+キャノピーによって構成されます。日本ではウインドシールドもひっくるめてキャノピーと言ったりしますが、本来は別のものです。ちなみにパラシュートの主傘もキャノピーと呼ばれます。紛らわしい…。)

上記に挙げた「昔ながらの脱出」では、自機に衝突して負傷したり死亡したりするケースがままあり、特に垂直安定板や水平安定板との衝突が多かったようです。

射出座席の出現

さて、第二次大戦中のドイツにおいて、脱出時にキャノピーを爆薬で吹き飛ばす方式が一部機種に導入され、また、圧縮空気を使って座席ごとパイロットを空中に撃ち出す射出座席も登場しました。
(射出座席を搭載した機体としてはハインケルHe219”ウーフー”などが挙げられます。)

戦後、ジェット機が主流となり始めると、その高速性から自力で「昔ながらの脱出」を行うことが困難となりました。そのため、戦闘機などにおいては射出座席が不可欠な装備となります。

現代も射出座席の有力メーカーである英マーチンベーカー・エアクラフト社は、撃ち出し動力に火薬を用いる射出座席を開発、1946年には飛行中の航空機から人間の射出テストを行いました。
以降、1960年代にロケットモーターを用いる射出座席が登場するまで、火薬式の射出座席が多くの機体で採用されています。

一般的な射出座席の動作プロセスについても触れておきましょう。
射出座席では、座席撃ち出し後、一定時間が経過した後に座席後部に内蔵された補助パラシュートが引き出されます。
補助パラシュートは空気抵抗を受けることで、メインパラシュート(主傘)を引き出して開傘、その後パイロットは座席に体を固定しているハーネスを外し座席から離脱します。座席には、救命ボートや非常食、サバイバルキットや連絡用の無線機なども入っており、これらの同梱品のタグはパイロットの装備に繋がれているため、離脱時に一緒に引き出されます。

現代の射出座席

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射出座席の試験の様子

1950年代、火薬撃ち出し式の射出座席が広く用いられていましたが、火薬方式の撃ち出しでは、その使用に一定の速度と高度が必要でした。低高度/低速度では射出座席が使用できなかったわけです。
しかし、1960年代に入るとロケットモーターを撃ち出し動力とした射出座席が登場します。ロケットモーターは推力に優れ、パラシュート降下が可能な高度までパイロットを打ち上げることができます。これにより、現代の射出座席のほとんどは高度0、速度0の状態でも使用できる「ゼロ・ゼロ射出」可能なものとなりました。

ちなみに機体のキャノピー投棄についても、昔は座席射出前に吹き飛ばすのが普通でしたが、現代では爆索が封入されていてグラスを細かく砕いたり、射出座席頂部でキャノピーを突き破って飛び出す方式も採用されています。

また、高速飛行時に安全に脱出できるようコクピットごと射出されるモジュール式脱出装置や、脱出に際してパイロットの全身をシートで覆う方式も登場しました。

最後に

採用例は僅かですが、回転翼機、すなわちヘリコプターにも射出座席を採用しているものがあります。
代表的なのはロシアの攻撃ヘリKa-50で、メインローターを火薬で吹き飛ばした後に射出されます。

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Ka-50N

射出座席にはロシアNPPズヴェズダ製K-37-800を採用しています。NPPズヴェズダ製の射出座席の信頼性には定評があり、ソ連/ロシア製戦闘機でも、Mig-25以降は同社K-36シリーズが採用されています。

なお、射出座席とは言いましたが、Ka-50で採用されたK-37イジェクション・システムでは座席自体は射出されません。
シート後部に設置された小型ロケットが点火して機外へ射出され、そのロケットに連結された索によりパイロットも機外へ引っぱり出されることになります。パイロットがローター圏外の安全な位置に出るとパラシュートが引き出されます。