Man On a Mission

システム運用屋が、日々のあれこれや情報処理技術者試験の攻略を記録していくITブログ…というのも昔の話。今や歴史メインでたまに軍事。別に詳しくないので過大な期待は禁物。

【戦前用語の基礎知識】元老とは【大日本帝国】

日本近代史の本などを読んでると、ちょくちょく「元老」という言葉が出てきますが、今回記事はこの元老とやらがどういった存在なのかについて。

元老ってなに?

大日本帝国において政治や軍事の中枢にあった大物で、天皇に首相を推薦したり(奏薦:そうせん*1)、国政の重要事について影響力を行使したり(明治期)、宮中関係事項について発言を行う(大正期)人物…という感じなのですが、実のところ、明確な定義はありません。

元老には、法令上の規定もなく慣行として存在したものです。元老となるための資格なんかも、確としたものはありません。
また、明治・大正・昭和で役割や元老に選ばれる条件が変化しており、この点も話をややこしくしています。
とりあえず、以下、それぞれの時期における元老について述べていきます。

明治期の元老

明治時代の元老については、概ね「明治維新以来、政治軍事の中枢にあり、大い戦にあるとき退いたあとも、首相奏薦について天皇の下問をうけ、その他国政の重要事項について影響力を行使する薩長指導者層」という感じです。

伊藤博文山県有朋黒田清隆井上馨西郷従道大山巌松方正義の7人が元老に挙げられます。なお、挙げた順は元老の序列順になってて、この序列は維新後の功績によって自然に形成されたものだそうです。
ちなみに、大隈重信板垣退助なんかも明治の元勲に該当しますが、薩長に属さないため元老になりませんでした。
なお、天皇から元勲優遇の詔勅を受けたことをもって元老の指標とすることもありますが、上記7人中、この詔勅を受けたのは伊藤・山県・黒田・松方のみです。西郷・大山は受けておらず、井上は類似の勅語を受けただけとなっていますので、指標としてはあまり適当とはいえません。

大正期の元老

大正時代に入ると、元老の資格と役割が変化します。「政治の第一線を離れ、天皇から匡輔(きょうほ)*2を求める詔勅を受け、首相奏薦について、天皇の下問を受けその他宮中関係事項について発言する指導者層」というのが大正期の元老です。
上記のとおり、政治の第一線を離れ、また天皇から詔勅を受けることが元老の条件となりました。さらにその人選が薩長に限られなくなっています。
役割については、首相奏薦権を持つのは明治と同様ですが、それ以外では宮中関係に発言範囲が限定されることとなりました。

大正期の元老に該当するのは、山県有朋井上馨大山巌松方正義桂太郎西園寺公望の6人です。
なお、西園寺公望が元老と看做されるのは大正5年以降です。また、桂太郎詔勅を受けているものの第一線を離れず、他の元老から元老と看做されてないなど、やや微妙な立場でした。
桂太郎と似たように微妙なのが大隈重信で、大正5年に御沙汰書を受け、元老の待遇を受けることとされましたが、山県以外の元老は大隈を元老とすることに反対で、さらには大隈自身が元老制度について否定的でした。大隈は通常、元老とはされないのですが、天皇からの後継首班の下問に奉答したこともあり、絶対元老じゃないとは断言できないという、なんだかよくわからない立ち位置にいます。

昭和期の元老

明治期・大正期の元老に比べ、昭和期の元老の定義は簡単で西園寺公望(さいおんじ きんもち)のことです。

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西園寺 公望

昭和期唯一の元老である西園寺公望は、昭和元年、新天皇践祚*3後、直ちに勅語を受け首相奏薦権を昭和12年まで保持することとなります。
ちなみに昭和期の西園寺の政治上の公式ポストは公爵としての貴族院議院だけでしたが、出席することはなかったようです。
昭和12年の第一次近衛内閣成立の際、首相の奏薦については(元老の意見は聞くものの)内大臣が行うこととなったので元老の地位は大幅に低下しました。
昭和15年に至ると、西園寺公望は意見すら言わず、第二次近衛内閣が成立しています。この第二次近衛内閣成立時より、首相奏薦を内大臣が首相経験者(重臣)を集めて行うこととなりました。これは西園寺が事実上引退の意を示していたことが背景にあり、また、奏薦方法の変更は木戸幸一内大臣昭和天皇の許可を得て行っています。

昭和15年11月24日に西園寺公望は死去し、これをもって元老がいなくなりました。
生前、後継元老の創設が論じられたこともあったのですが、西園寺はこれを拒否、世論もそれを許す状況ではなかったため、元老制度は終焉を迎えることとなります。

主な参考資料

本記事を書くにあたり、以下の書籍を主な参考資料にさせて頂きました。

事典 昭和戦前期の日本―制度と実態

 

 

*1:奏薦とは、親任官の任命を天皇に推薦することです。

*2:及ばないところを助けること

*3:せんそ。天皇の位につくことをいいます。