Man On a Mission

システム運用屋が、日々のあれこれや情報処理技術者試験の攻略を記録していくITブログ…というのも昔の話。今や歴史メインでたまに軍事。別に詳しくないので過大な期待は禁物。

【日本陸軍の生活】ぐんたいぐらし! 5巻目【トイレ】

日本陸軍の生活について語る不定期連載(のつもり)5回目です。
なお、当シリーズの今までの記事は以下のとおり。

【日本陸軍の兵営生活】ぐんたいぐらし!【内務班】 - Man On a Mission

【日本陸軍の生活】ぐんたいぐらし! 2巻目【兵たちの食事事情】 - Man On a Mission

【日本陸軍の生活】ぐんたいぐらし! 3巻目【風呂・入浴】 - Man On a Mission

【日本陸軍の生活】ぐんたいぐらし! 4巻目【洗面・洗濯】 - Man On a Mission

恒例としてまずは、記事タイトルについて謝罪いたします。ごめんなさい。他意はありません。

さておき、ゾンビサバイバルものはゾンビがあふれかえる非常時という妄想設定ですので、普通に考えると電気・ガス・水道といった各種インフラは止まっている、あるいは程なく止まることが予想されます。
そのため、ゾンビサバイバルものでは水の確保や、バッテリーや発電機による電力確保、カセットガスなどでの燃料確保について描写されることがあります。
しかし、これらの「入手」については描写されても、意外とゴミや排泄物といった「廃棄」まわりのインフラについて描写されることは少ないようです。
排泄物の処理についてはゾンビサバイバルガイド企画本で見たことがありますが、水道が止まった後は排泄物をビニール袋に入れて外に捨てることとされていました。ビニール袋をいつまで用意できるのかとか、ビニールが破れて衛生環境が悪化しそうだとか気になる点はあるものの、とりあえずの解決法といったところでしょうか。ちなみに、屋外へ出られない場合はそのビニール袋を冷凍庫へ入れるといった恐るべきことも書かれてたり。

軍隊においても、こうした「廃棄」処理は重要となります。
当シリーズ2回目で少し触れましたが、例えば日本陸軍の兵営における残飯については、養豚業者などに払い下げを行ったりしていました。残飯以外のゴミ処理なんかについてもいずれ触れたいと思いますが、今回は日本陸軍のトイレや排泄事情について。

兵営におけるトイレ事情

日本陸軍では、トイレのことを「厠」と呼称していました。
将兵1人の1日あたりの排泄物の標準量は、小が6合6勺(約1.2リットル)、大が6合(約1.1リットル)とされており、この規定量に従って人員11名に対し小便器1個、30名に対して大便器1個を設置するものと定められています。

厠の内部は、少便所と大便所より構成され、入り口には手洗い用の手水が設置されていました。
なお、厠に手洗い用の水道が設置されていない場合、手水には「吊り手洗い器」が設置されます…などと言っても、ピンと来ないと思いますが、要は吊り下げ式の水タンクの底面にカラン(蛇口)が付いたものです。カラン部には弁棒と呼ばれる部分があり、これを上に押し上げるとタンク内の水が出る仕組みになっています。
兵営に限らず、昔のトイレではよく使われてたようなのですが、私も実物を見たことはありません。一応、まだ販売されているようです。アウトドアとか災害対策用には良いかもしれませんね。

閑話休題。厠の内、小便所については、放尿者が位置する踏み石とその前方にある小便器より構成されています。
大便所は、便房と呼ばれる扉付きの個室から構成されており、中にはそれぞれ便器1個が設置されていました。便房には箱かカゴに入れた「落し紙」が置かれています。

明治建軍以来、衛生面からは水洗式が奨励されていましたが、残念ながら下水道の普及の遅れから、多くは汲取式でした。
汚物の処理システムにより「暗梁式」と「運搬式」に分類され、このうち「暗梁式」が下水道を用いる水洗式タイプ、「運搬式」が汲取式となります。
上下水道が整備された一部の大都市では、「暗梁式」すなわち水洗トイレが用いられたものの、前述のとおり、ほとんどの兵営では「運搬式」が使用されていました。

なお、これ以上知りたくないかもしれませんが、「運搬式」はさらに「杭厠」「樽厠」に分類されます。
汲取式トイレには、汚物を貯留する「便槽」という槽がありますが、「杭厠」は便器ごとに便槽が設置されているタイプで、「樽厠」は各便器を「便通管」というパイプで連結して一つの便槽に汚物を集約貯留するタイプとなります。兵営で多く使われたのは「樽厠」、集約貯留タイプでした。
なお、便槽に貯留した汚物は、「下肥(しもごえ)」と呼ばれる肥料として利用されることとなります。部隊と提携している汲取業者が、定期的に便槽から回収を行いました。

ちなみに、入浴などと同様、トイレの使用についても細かく注意事項が設けられており、例を挙げると以下のようなものがありました。

  • 便通は1日1回あるように習慣づける
  • 大便はなるべく朝に行うように習慣づけ、昼に行くような習慣をつけないようにする
  • 便所は汚さないようにする
  • 手洗用の手水が無くなった場合は、ただちに補充する
  • 小便を行う場合は、跨の前ボタンを下から3つ外して、少し跨を下にずり下げてから放尿する
  • 用便後は手水で手を洗い、ハンカチや手拭で手を拭く
  • 上厠中は、喫煙や歯磨きをしたりせず、また隣のものと会話をしたり、詩吟や歌等を唄わないように注意する
  • 伝染病予防のために下痢患者は、かならず決められた便所で用便を行う

余談ですが、自分だけでなく古年兵の面倒(装具手入れなど)までみないといけない多忙な初年兵にとって、唯一便房だけが1人になれる憩いの場所だった、なんて話もあります。便房で靴下をつくろったり、10分だけの仮眠をとったり、こっそり作った握り飯を食べる兵隊もいたのだとか。

戦地での排泄

さて、平時の兵営生活では曲がりなりにもトイレがあったわけですが、戦地ではまた事情が異なってきます。

野戦での露営時なんかでは、厠となる穴を掘って用便を行いました。
例えば、30人で1日露営の場合だと、幅30cm、長さ1m、深さ50cmの穴を掘ります。臭気を消すために防臭剤や灰、砂をかけました。冬期には囲いも作ったそうです。

行軍中や戦闘中は原則我慢です。とはいえ、人間ですから腹を下したり、我慢できなくなることもあるでしょう。状況が許せば、「安全そうな場所」を見繕って用を足したようですが、やはり、その際に撃たれたりして戦死することもあったようです。
なお、状況が許さなかった場合は……察してください。

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ナポレオン ―獅子の時代―より

最後に

フィクションの戦争ものではあまり排泄について描写されることは少ないのですが、現実では、排泄と戦争は切っても切れない関係となります。
ちなみに、戦闘機なんかでは排泄用に「小便袋」が用意されてて、排尿なんかはそちらにしたという話があります。大の方は我慢です。我慢できなくなった時は……やはり察してください。
現代の戦闘機パイロットは耐Gスーツの着用もあって、さらにどうしようもないようです。「不測の事態」に備えて、おむつを着用するパイロットも少なくないとか。
海軍のトイレの話も凄まじいものが多いのですが、長くなるので、この辺はまたそのうちに。

余談ですが、太平洋戦争での米海兵隊の戦いを描くHBO制作のテレビドラマ、ザ・パシフィックでは、休止中、洞窟の中で用をたそうとした兵士が、奥にいた日本兵に襲われるなんてシーンがありました(第7話)。
ザ・パシフィックといえば、元ネタの一つであるユージン・B・スレッジの「ペリリュー・沖縄戦記」には、ペリリュー島は地面が岩がちで土が少なかったため、排泄物に土をかけることができず、死体の腐臭も合わさって耐え難い悪臭を放ったなんて話も。

悪臭といえば、沖縄戦での陸軍病院壕の臭いを再現し追体験できるようにした、なんて取り組みがありました。

ryukyushimpo.jp

www.huffingtonpost.jp

戦争イメージの「ファンタジー化」が著しい昨今、なかなか興味深い試みかもしれませんね。

主な参考資料

本記事を書くにあたり、以下の書籍を主な参考資料にさせて頂きました。

写真で見る日本陸軍兵営の生活