Man On a Mission

システム運用屋が、日々のあれこれや情報処理技術者試験の攻略を記録していくITブログ…というのも昔の話。今や歴史メインでたまに軍事。別に詳しくないので過大な期待は禁物。

【陰謀論】世界はxxに支配されてます。【陰謀史観】

怪文書コレクション

その昔、90年代末のインターネット黎明期(…とするかどうかは異論があるかもしれませんが)に、怪文書保存館という団体が設立されました。

怪文書保存館: http://www.hehehe.net/library/
エンコードを明示的に日本語SHIFT JISにしないと文字化けします。)

ネットワーク上の怪文書の収集・保存を目的とした団体でしたが、現在は有志のボランティアにより運営されているそうです。

インターネット黎明期は、アンダーグラウンドサイトの隆盛期でもあり、その影響か、一般サイトにおいても、ややアンダーグラウンド的趣向を取り扱うところが多くありました。怪文書保存館はその一端を担っていたように思います。

当時、私も上記サイトの怪文書を興味深く読んでいました。しかし、時代は移り、年を食って世間擦れしてくると、それほど物珍しいものでも無いように感じています(単に麻痺してるだけかも)。今や時の政府が惜しげもなく怪文書を発行したり、珍説を披露したりしますしね*1

私としては、稀に思い出しては昔を懐かしんでチラリと眺める程度になりましたが、とはいえ、怪文書にはどことなく人を惹きつける魅力(?)があるのは確かですので、これからも新たな読者を獲得し続けるのでしょう(文字化けしてなければ)。
ちなみに、私のお気に入り怪文書はこちらになります。

大衆的実力闘争の爆発でクリスマス粉砕へ!: http://www.hehehe.net/library/lib/F-00002.html

ていうか、これ絶対ネタだよね…。今、似たノリの小説あるぞ…。

怪文書の一ジャンル? 陰謀論

さて、怪文書保存館に掲載されている怪文書には、陰謀論に関するものがあります。
元々、怪文書と陰謀論は切っても切れない関係と言えますが、今回はそんな陰謀論について、思いつくまま語ってみる記事です。

 といっても、陰謀論全般だと範囲が広くて大変なので、私の趣味範囲…歴史がらみとなる陰謀史観について取り上げます。

陰謀史観

陰謀史観とはなにか?
以前の記事でも少し触れたことがある、秦郁彦氏の「陰謀史観」から引用ですが「特定の個人ないし組織による秘密謀議で合意された筋書きの通りに歴史は進行したし、進行するだろうと信じる見方」です。
ついでに、同書で海野弘氏による定義が引用されているので、そちらも紹介しておきます。

身のまわりに不思議な出来事が起こる。もしかしたら、それは偶然ではなくて、なにかの陰謀、〈彼ら〉の企みではないだろうか。このような考えを〈陰謀史観(コンスピラシー・セオリー)〉という。この、見えない〈彼ら〉は、神であるかもしれず、悪魔であるかもしれない。
〈彼ら〉として、ユダヤ人、フリーメーソン、ナチ、共産主義者、さらには宇宙人までもが名指されてきた。(海野弘「陰謀の世界史」)

 

ユダヤ人やフリーメーソンといった、陰謀論のレギュラーメンバー揃い踏み…といった風情の定義ですね。他のレギュラーとしては、CIAとかKGB等の諜報を担当する国家組織なんかが挙げられるでしょうか。後は南蛮帝国*2とか男*3とか。えーと他には日教組とかもありましたね。世界は陰謀に満ちているなあ。

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神聖モテモテ王国」より

それでは、以下、簡単ながら陰謀史観の具体例について取り上げてみます。

世界はユダヤ人に支配され以下略

上記の定義にもあった、ユダヤ人が主役の陰謀論です。
ユダヤ人の方には失礼極まりないものですが、それだけに留まらず、差別や迫害を正当化する根拠に使われることもある、非常に悪質な陰謀論です。

陰謀論の内容ですが、1897年にスイスのバーゼルで開催された第1回シオニスト会議で、世界支配の企みを秘密議事録シオン議定書に記したことを起点に、その後の世界大戦をはじめとする様々な歴史的変動は、すべてユダヤ人の陰謀とするものです。

聞くだに荒唐無稽ですが、社会的背景上、ユダヤ人に対する偏見を持つ人々が一定数いた欧米では、反ユダヤ主義としてエスカレートしていきました。

ちなみに、シオン議定書は、帝政ロシア宗務庁の下級役人による偽造文書だったようです。
なお、こういった陰謀論で「その文書、偽書だよ?」とか言うと、陰謀論支持者の方は「本物か偽書かは問題ではない!今実際にそうなっているんだから!*4」などと言い出すことがあるので要注意です。後述する田中上奏文においても、同様の反論が見られました。

不思議なことに、ユダヤ人との関わりが薄い日本においても一定の人気(?)を得ており、秦郁彦氏がヤフー検索してみたところ、コミンテルンフリーメーソンを押さえて最多ヒット数を叩き出したそうです。

世界はフリーメーソンの手のひらで以下略

お次はフリーメーソンですが、正直ユダヤ陰謀論と大同小異で大した違いがありません。
やや特徴的なのは、人種の縛りがなくなるせいか、誰でも彼でもフリーメーソンの会員にしてしまうところでしょうか。

実際上のフリーメーソンは結構、オープンな会で、マスコミの取材なんかも普通に受け入れているようです。
ロータリークラブなんかと同様に、ステータスが高いとされる社交クラブ、というのが実情に近い模様。
実際、1950年の朝日新聞に、レヴィスト少佐の紹介により国会議員ら10名が入会した、との記事があります(「陰謀史観」)。
マッカーサーから祝電が届いたという話もあって、公職追放解除を願って戦前活動していた著名人らが次々と入会したとか。鳩山一郎や、東久邇宮元首相も含まれていたというから、少し面白いですね。
ずいぶんとオープンな「世界征服をたくらむ秘密結社」です。我らのビッグファイアのために。
まあ、陰謀論支持者の方は、こういったオープンな面も、世を欺くためのカモフラージュである、とするのでしょうが。

世界はコミンテルンにより…いい加減飽きませんか?これ。

コミン★テルンさんが世界のあれこれを裏から操っていた説です。
2008年に、アパ・グループ*5が募集した「真の近現代史観」懸賞論文*6で、某J隊のお偉いさんの「論文」が入選しちゃったという珍事がありました。その「論文」には、コミンテルン陰謀論が含まれており、その影響でやや知名度が復活しております。
復活…というのは、この陰謀論がかなり昔から何度も流布している、古典的なものだからです。

なお、コミンテルンは、「コミュニスト・インターナショナル(国際共産主義者機構)」の略称であり、「ロシア革命をモデルとする世界共産革命」を実現するための国際組織として結成されたものです。
しかし、その後、資本主義陣営の反撃*7により、スターリンが一国社会主義を唱え出し、コミンテルンの優先任務をソ連の防衛へと変更、実質的にソ連共産党国際部とでもいうような地位に転落しました。
しかし、日本では伝統的にコミンテルンを過大評価する傾向があり、戦前から識者やメディアが声高に脅威を訴えていました。
(そんな識者は識者と呼べるのか、疑問ではありますが。)

コミンテルン陰謀説の検証などについては、そろそろ飽きたので陰謀史観」などの本を見ていただくとして、一点、不思議なのは「保守」界隈の方々が、「日本はコミンテルンに騙されて、あの戦争を始めた!」と嬉々として語っていることでしょうか。
その論に従うと、コミンテルンが凄すぎるのか、日本が間抜けなのかのどちらかになってしまうのですが、コミンテルンが凄すぎると仮定した場合、スターリンに地位転落させられたり、役に立たないからと1943年に解散させられたりしたことと辻褄が合いません。
まことに陰謀論は複雑怪奇ですね。
なお、同様の疑問は「ローズヴェルト真珠湾攻撃を知っていた」説でも味わえます。

田中上奏文

海外ばかりが主役ではずるいので、日本が主役の陰謀論も少し紹介しておきましょう。
その昔、日本は、満州事変、日中戦争、太平洋戦争と立て続けにやらかしちまいましたが、どれも明確な「日本としての」論理のもとに実行されたわけではなく、一部の人びとの暴走や偶発的事象、官僚組織的なグダグダだとか複数の事情がもつれ合った末の、割と行き当たりばったりな「やらかし」でした。

それに対して、いわゆる「田中上奏文陰謀論は、日本が計画的に世界征服に乗り出した、とするものです。
ちなみに「田中メモリアル」と言われることもありますが、共通点である「田中」さん、この人は第26代内閣総理大臣田中義一のことです。
1927年7月25日に田中義一が上奏したとされるものですが、「支那を征服せんと欲せば、まず満蒙を征せざるべからず。世界を征服せんと欲せば、必ずまず支那を征服せざるべからず」といったくだりが有名で、日本が世界征服をもくろんだ証拠とされてきました。

しかしながら、田中上奏文はかなり早い段階で偽書であることが指摘されています。
専門家であればすぐ気づくような単純なミスが多く、当該文書が広く流布され始めた1929年には、外務省が事実誤認箇所などを指摘し、偽書であることを説明しています。

ところが、1931年、満州事変が勃発し外務省の説明に説得力が無くなってしまいました。
1932年11月、国際連盟理事会の席上で、松岡洋右が、顧維鈞中国代表との論争で「この問題の最善の証明は、実に今日の満州における全事態である」と反論されることになります。
この件、ユダヤ陰謀論の節で似たようなやり取りについて触れました。どちらも論点すり替えによる切り返し方ではありますが、こちらは本当にそうなっちゃってるところがウィークポイントです。

なお、本件について興味のある方は、「陰謀史観」か、割と古い本ですが「昭和史の謎を追う[上]」をお読みください。

最後に

さて、つらつらと思いつくまま書いてきましたが、不思議なのは、これら陰謀論の支持者が「特定の人物や団体の陰謀通りにことが進む」と妄信しがちなことです。
陰謀や謀略をもくろむ連中はいるけども*8、そいつらの目論見どおりにことが運ぶわけではない、常識的に、世の中がそんなに単純な作りになってないことくらい分かるかと思うのですが。まあ、「信じたい」からこそ信じている、ということでしょうかね。

参考文献

本記事を書くにあたり、以下の書籍を参考にさせて頂きました。

陰謀史観

昭和史の謎を追う[上]

検証・真珠湾の謎と真実

日米開戦と情報戦

 

 

*1:まあ、昔も特殊法人が「プルトニウムはごくごく飲んでも大丈夫」とかいう怪アニメを出したり、ましてや戦前・戦中にかけては怪文書の大量発行・定期刊行を成し遂げていたお国柄ではありますので、珍しくも無いのかもしれません(!?)

*2:陸軍中野予備校

*3:神聖モテモテ王国

*4:なってない

*5:最近、少し話題になったアパ・グループですが、まあ、昔からあんな感じだったわけですね。

*6:審査委員長は渡部昇一(英語学者)。ご冥福をお祈りいたします。

*7:中国共産党が国民党に抑えこまれたりとか

*8:世界征服とかちょっとアレな陰謀は除外します。