Man On a Mission

システム運用屋が、日々のあれこれや情報処理技術者試験の攻略を記録していくITブログ…というのも昔の話。今や歴史メインでたまに軍事。別に詳しくないので過大な期待は禁物。

【広島】原子爆弾と8月6日に起こったこと【原爆の日】

本日は8月6日、広島原爆の日です。
今(2017年8月6日)から72年前の今日、第二次大戦最末期の1945年8月6日に、人類史上初の原子爆弾による攻撃が行なわれ多くの犠牲者を出しました。
8月9日には、続いて長崎にも原子爆弾が投下されています。

日本は、世界で唯一の核兵器による被爆国なのですが、それでも近年は核の脅威に対する認識が風化しつつあるように思います。

まあ、これは核兵器に限った話というわけでもありません。
以前の銃剣の記事風船爆弾の記事なんかでも書いたのですが、私は最近、戦争に対するイメージが「ファンタジー化」してないかと少々危機感を覚えています。
第一次世界大戦前夜のヨーロッパと同じで、戦争に対してフィクション的イメージを抱いてないかな、と。戦争についてのあれこれを、随分軽々しく捉えているような…?
(ちなみに、米露を初めとした核保有国の人々なんかは、核兵器の被害実態を十分に知らされていない傾向があります。国内で十分な情報が得られないせいか、近年、外国人観光客が広島平和記念資料館を訪れることが増えている、なんて話もありました。)

そんなわけで、今回は多少なりとも戦争の実態を知ろうということで、広島原爆投下の推移と、原子爆弾の基本的な知識について書きたいと思います。

 8月6日の原爆投下

1945年8月6日午前2時45分、B29爆撃機エノラ・ゲイ」号*1が、Mk1原子爆弾「リトル・ボーイ」を搭載してマリアナ諸島テニアン島を出撃しました。
(ちなみに、科学観測用のB29、写真撮影用のB29も随伴。また、先行して気象観測用のB-29も出撃しています。)
先行する気象観測機「ストレート・フラッシュ」号は、広島上空の気象について「爆撃条件良好」との報告を送り、これを受けて予定通りに広島への原爆投下が決定。
8時15分、元安川と本川の分岐点に架かる相生橋の上空に到達した「エノラ・ゲイ」号は「リトル・ボーイ」を投下、8時16分ちょうどに地上576メートルで炸裂しました。

なお投下に先立って、原爆の威力計測を目的に、観測計器を積んだ3個のパラシュートが投下されています。
このパラシュートを目撃した市民も多く、なかにはB29が故障して乗員が飛び降りたと思い拍手する者もいたとか*2

さて、投下されたリトル・ボーイは、ウラン235核分裂反応を起こし炸裂、爆風で爆心地から2km以内の建物はほぼ全壊、さらに木造建物の自然発火を引き起こし大火災に発展します。
朝の通勤時間、それに空襲警報が発令される前の投下という悪条件も重なり、多くの市民が原爆の直撃を受け、全身が炭化して即死、あるいは体中の皮膚が焼けただれる大火傷を負って息絶えました。生き残った人々も、血まみれになりながら助けを求めるもの、ぼろきれのような皮膚をぶら下げてうめくものなど、「地獄絵図」としか形容できない惨状であったといいます。

県庁や市役所、広島に本部があった第二総軍司令部などは壊滅しましたが、爆心地から4kmほど離れた宇品港の陸軍部隊は損害軽微であったため、市内の救護活動に当たりました。
この他にも市街から救援に駆けつけたものも多くいましたが、彼らは直接の被爆者と同様に大量の放射線にさらされ、後に重大な健康障害を引き起こすこととなります。
地表に残留する放射性物質だけでなく、放射性物質を帯びた塵を大量に含んだ雲から降った「黒い雨」は、爆心地から北西方向に向かって10km以上離れた地点にまで影響を及ぼし健康被害を拡大させました。

広島への原爆投下から約1ヶ月後の死者は約17万人、その都市の12月末までには約20万人の死者を出したと推定されています。
その後も、放射線による後遺症で死者は増え続けていきました。

原子爆弾の仕組み

原子爆弾の仕組みについて、基本的な知識を。

原子爆弾には、ガン・バレル(砲身)型とインプロージョン(爆縮)型の二種があります。
8月6日に広島に投下されたMk1「リトル・ボーイ」はガン・バレル型、長崎に投下されたMk3「ファットマン」はインプロージョン型です。

ガン・バレル型は、細長い金属製容器の前後に臨界量以下に二分した高濃縮ウラン塊を入れ、そのうち一方を火薬の爆発力により他方のウラン塊にぶつけることで臨界量を超過させます。
これに対してインプロージョン型は、高濃度プルトニウムを球状に配置し、その外側に並べた火薬の爆発により位相の揃った衝撃波を与え、その内側に向かう圧力でプルトニウムを圧縮、高密度にすることで臨界量を超過させる方式です。
いずれの方式でも、臨界量の超過により核分裂の連鎖反応が起こり、膨大なエネルギーが放出されます。

なおインプロージョン型は、核分裂の連鎖反応が進行している間も核分裂物質が中心へ向かう力を保持しているため(ガン・バレル型と比べて)効率がよいという特徴があります。また、爆発威力の制御も容易であるため、原子爆弾においてはインプロージョン型が主流となっています。

しかしながら、原子爆弾に搭載された核物質のうち、実際に核分裂を起こすのはごく一部です。
広島に投下されたリトル・ボーイでは、64キロのウラン235のうち、核分裂を起こしたのは1パーセントに過ぎず、効率がよいインプロージョン型のファットマンでも、6.2キロのプルトニウム239のうち20パーセントしか核分裂を起こさなかったと言われています。
(逆に言うと、600グラムから1.2キロ程度の量の核分裂で、都市一つを壊滅させるだけのエネルギーが放出されたわけです。)

核兵器の威力は「核出力」で表されます。
これは、TNT火薬の量に換算してキロトン(1キロトン=1000トン)やメガトン(1メガトン=100万トン)といった単位で示され、広島投下のリトル・ボーイは15キロトン、長崎投下のファットマンでは22キロトンです。
ちなみに、3月10日の東京大空襲で米軍が投下した爆弾は38万1300発、1783トンですが、広島・長崎の原子爆弾の威力は1発だけでそれを遥かに凌駕しています。

第二次大戦後、改良により核分裂の効率化が進められ、数百キロトンの原爆も開発されました。
原爆じゃなくて水爆ですが、ソ連製の「ツァーリ・ボンバ」に至っては50メガトンに達しています。

核爆発により起こること

核爆発により何が起こるのか、その推移を見てみましょう。

核爆発が起こると、まず火球とよばれる火の玉が発生します。
これは通常爆弾による火炎とは異なり、放出されたガンマ線X線に大気中の原子が激しく反応した状態であり、その熱は中心部で数百万度、表面で数千度に達します。
広島・長崎の原爆では、直径500メートル以上の火球が発生、地表近くにまで達したと考えられます。そのため、爆心地では石の表面が融けてガラス化するほどの高温となり、被爆者はほぼ蒸発します。
(ちなみに、水爆ともなると、数キロにおよぶ大きさの火球が発生し爆心地から数平方キロが一瞬にして消滅します。)

さらに、火球の発生と同時に衝撃波を伴う爆風が発生します。広島の原爆の場合、秒速約440メートルの爆風が発生し、風圧は1平方メートルあたり35トンにもなりました。

さて、発生した火球は高温のため急激に上昇しますが、上空で冷やされて雲となります。
火球の上昇に伴い気圧変化が生じ、周囲の大気や破壊された構造物などを巻き込んだ上昇気流が発生、火球に向かって立ち昇ります。
火球は上昇気流の雲と合流するとドーナツ状の対流を起こしますが、これがいわゆる「キノコ雲」です。
なお、キノコ雲は高度数十キロの成層圏にまで到達します。

その後、キノコ雲は徐々に勢いを失って形が崩れていきますが、雲のなかには放射性物質を帯びた塵が大量に含まれています。
これが「黒い雨」となって地上に降り注ぎ、また軽いものは成層圏の気流にのって風下へと運ばれ放射性降下物として広範な地域を汚染します。

最後に

さて、駆け足ながら広島への原爆投下と、原子爆弾の基本的な知識について書いてみました。

現代においても、北朝鮮問題だとか、核兵器禁止条約に不参加だったりとか、日本核武装論が(また)出てきたりとか、核兵器がらみの話は尽きません。
各々の論についての是非はさておきますが*3、唯一の被爆国として、核兵器によって何が起こるのか、ある程度は知っていて欲しいと思う次第です。

 

 

*1:アメリカ陸軍航空軍第20空軍の第509混成部隊に所属。ちなみに当時のアメリカに「空軍」は存在してません。1947年にアメリカ陸軍航空軍が、独立した軍種としてのアメリカ空軍になります。

*2:リトル・ボーイが落下傘付きで投下されたという誤った説の一因にもなった模様

*3:特に核武装論について、どこで実験して、どのぐらい保有して、その得失の見込みはどうなってるのかとか、色々しつこく突っ込みたい気分はあったりするのですが。