Man On a Mission

システム運用屋が、日々のあれこれや情報処理技術者試験の攻略を記録していくITブログ…というのも昔の話。今や歴史メインでたまに軍事。別に詳しくないので過大な期待は禁物。

【戦争と兵器を知ろう】核兵器にまつわるあれこれ

最近の記事で原爆、水爆について取り上げました。
今回はその補足記事です。核兵器にまつわるちょっとした話など。

中性子爆弾

各兵器には、原爆、水爆以外にも中性子爆弾なんてものがあります。
核融合反応によって放出される中性子は、核分裂反応で放出されるそれと比べて3倍ものエネルギーを有する高速中性子であり、中性子爆弾はこれを活用して生物の殺傷能力を高めたものです。

 原爆や水爆と比較して熱線や爆風が小さく、また残留放射能も少量になるよう設計されていますが、代わりに、核爆発時のエネルギー放出における中性子線の割合を高め、生物に対する殺傷能力を高めています。
中性子線は透過力が高く、建物内の生物に対しても放射線障害による死傷を与え、爆風などの被害半径よりも中性子線による被害半径の方が大きくなっています。

爆発力が小さいことから、戦術核兵器(通常兵器の延長線上で使用される核兵器)としての利用を考えられることが多く、例えば203mm榴弾砲で発射するW79核砲弾のmod0なんかが中性子弾頭となっております。
ちなみに、米M115 203mm榴弾砲の最大射程は16,700mです。
(余談ですが、W79核砲弾はレーガン政権下での中性子爆弾製造決定を受けて生産されています。戦術核兵器は「特定戦域の特定戦場」での使用可能性を想起させるものであり、ソ連に対して明確な圧力となりました。)

核爆発の爆発高度による被害変化

核爆発がもたらす破壊は、爆発した高度に左右されます。

たとえば、広島への原爆投下では高度約600mで爆発しており、このような低高度での爆発では爆風と熱線により壊滅的な被害をもたらします。
核爆発により生じた火球も地表近くまで到達し、キノコ雲が形成され死の灰を撒き散らします。

これに対して、上空30kmといった高高度での爆発では、キノコ雲は形成されず、放射性物質もほとんど発生しません。このような高高度での核兵器使用は、EMP(電磁バルス)発生により電子機器を使用不能とすることを目的とします。
冷戦時代、高度100キロ以上の宇宙空間で1メガトン程度の核兵器を爆発させられると、西欧諸国一帯の電子機器が破壊されてしまう懸念があり、耐EMP対策に取り組んだことがありました。
また、2005年には在韓米軍が、北朝鮮が高高度で核兵器を爆発させた場合、EMPによって在韓米軍の指揮統制能力にどのような影響を与えるか、という研究を米国防総省の防衛脅威削減局(DTRA)に要求したりしています。
ただ、EMPの影響範囲は広範囲に及びますので、上記北朝鮮のケースの場合、北朝鮮自身や中国・ロシアといった周辺国も影響を受ける可能性があります。攻撃手段として気軽(?)に使えるようなものではなさそうです。
ふと思い出しましたが、ベレンコ中尉亡命事件で有名なソ連製航空機MiG-25は、EMP対策で真空管を多く使っていたなんて説*1もありましたね。

もうひとつ、地中爆発なんてのもあります。
これは弾頭が地表に命中して一定深度潜り込んでから爆発する方式で、防護された地下施設の破壊などを目的としています*2
この場合、破壊そのものは局限されるものの、大量の放射性物質を拡散させることになり、当該地域に深刻な影響を残すこととなります。

核兵器の運搬

核兵器で攻撃を行うには、なんらかの運搬手段を用いて、攻撃したい地点に核兵器を持っていく必要があります。当たり前ですが。
運搬手段としては、最近だと弾道ミサイルがメジャー(?)ですが、他にも巡航ミサイルや、航空機への搭載(爆弾や空対地ミサイル)、果ては榴弾砲での射出や船舶に搭載して自爆させるなど、様々な手段があります。

冷戦時代、アメリカはICBM(大陸間弾道弾)、戦略爆撃機SLBM(潜水艦発射弾道弾)で構成される核戦略を「核の三本柱(トライアド)」と呼んでいました。
ちなみに、1960年ごろから1970年にかけては、核兵器を搭載した複数のB-52戦略爆撃機が常に空中を飛んでいるという悪夢のような時期もあったりします。
1961年には、米国ノースカロライナ州でマーク39核爆弾2発を搭載したB-52Gが空中分解、核爆弾が地表に落下するなんて事件もありました(ゴールズボロ空軍機事故)。

核兵器の廃棄

さて、冷戦中、各国はせっせと核兵器を貯めこんできましたが、冷戦後はその貯めこまれた何万発もの核兵器の処分に頭を抱えることになります。
冷戦終結により、核兵器そのものを減らさねばならないのですが(核兵器トリチウムやらリチウムやらの交換やメンテなど色々と維持コストが発生します)、その解体/処分が容易ではありません。通常兵器と異なり、核兵器では解体処分を待つ間にも厳重な管理体制が必要となります。このへんは、原子力発電と同じような問題を抱えてるわけですね。
なお、原子力潜水艦など、原子炉を積んだ艦船でも同じ問題がありますが、その昔、米ソとも扱いに困って海に原子炉を捨てたことがあります。

ソ連では、原子力砕氷船レーニンが起こしたメルトダウン事故の際、その原子炉をカラ海に捨ててしまっています。これ以外にもカラ海とノーバヤ・ゼムリム周辺に原子炉を投棄してたらしく、冷戦後の調査によればその数は、レーニンの原子炉と併せて16基だそうです。

アメリカでは、1957年完成の二番目の原子力潜水艦「シーウルフ(SSN-575)*3」に搭載された液体金属冷却型原子炉について、運用上の問題点とそれに伴う財政負担から廃棄を決定、大西洋の海溝に投棄しています。

なんともおおらかな時代…で済ませていいのか…?

それでは、今日のところはこの辺で。

 

 

*1:真空管が多く使われていたのは事実ですが、これがEMP対策だったかは不明。信頼性重視のためというのが通説。なお「MiG-25は真空管を使ってるからダメ」なんて記述をたまに見かけますが、MiG-25開発当時は半導体を使った電子回路技術は発展途上にあり、レーダー回路に使えるような大出力のトランジスタはアメリカでも実用化できてません。

*2:地下施設破壊を目的にした核爆弾には、地表爆発するものもありましたが、効果が不十分でした。

*3:シーウルフ級ではないので注意