Man On a Mission

システム運用屋が、日々のあれこれや情報処理技術者試験の攻略を記録していくITブログ…というのも昔の話。今や歴史メインでたまに軍事。別に詳しくないので過大な期待は禁物。

【戦争と兵器】アメリカの対戦車兵器 バズーカ【ロケットランチャー】

本日は、第二次世界大戦時にアメリカが開発した個人携行可能な対戦車火器、M1 "バズーカ"について少々。
M1は、1942年から量産されたロケットランチャー(ロケット弾発射器)です。
口径は2.36インチ(60mm)、有効射程は150mで装甲貫徹力は80mmに達しました。

f:id:lmacs510:20171126175243j:plain

主に、戦車をはじめとする装甲戦闘車両やトーチカ等を攻撃するために用いられ、発射ロケット弾の弾頭には成形炸薬弾(後述)が用いられています。
(発煙弾や焼夷弾なども発射可能。)

M1ロケットランチャーは北アフリカ戦線で実戦投入され、その有効性が実証されました。
その後、歩兵が手軽に扱える対戦車兵器として、ヨーロッパと太平洋の全戦線で多用されることになります。
ちなみに、ドイツ軍に鹵獲されて、それをもとにした「パンツァーシュレック」なんてものを作られたこともあったり。
なお、朝鮮戦争においても発展型のM9やM20が使用されています。

バズーカの使いかた

M1の発射は、射手と装填手の2名1組で行います。以下、発射手順。

  1. 射手がM1を構え装填手がロケット弾を後部から挿入、その際にロケット弾と発射筒を電気的に接続します。
  2. 装填手は後方に噴出する爆風を避けられる位置に移動して、射手に合図します。
  3. 射手がトリガーを引くと、通電によりロケット弾内部の発火薬に点火し、ロケット弾が発射されます。

成形炸薬弾とは

戦車の装甲を貫徹するには、大きな運動エネルギーをもつ弾丸をぶつける方法と、爆薬の爆発エネルギーを利用する方法の2種類がありますが、成形炸薬弾は後者、爆発エネルギーを用いるものに該当します(化学エネルギー弾)。

以前の記事でも触れたことがありますが、成型炸薬弾は、漏斗状に成型した爆薬内側に金属板の円錐(ライナー)を装着したものです。
(前方(発射方向)に円錐形の凹みがある形となります。)
成形炸薬弾が爆発すると、円錐中心軸に向かって衝撃波が集中、ライナーを溶融させつつ超高速噴流(メタルジェット)を起こします(モンロー/ノイマン効果)。これにより目標の装甲を貫徹、破壊するわけです。

成形炸薬弾は着弾速度に関係なく大きな貫徹力を持たせることができるため、ドイツの対戦車兵器パンツァーファウストや、ソ連RPG-7、さらには現代の対戦車ミサイル等でも用いられています。成形炸薬弾は対戦車兵器に欠かせないものなのです。

ただし、成形炸薬弾の貫徹後破壊力は徹甲弾などに比べると小さく、命中箇所が戦車乗員の位置や弾薬庫でない場合、無力化できないこともありました。
貫徹後の破壊力は概ね炸薬量に比例しており、第四次中東戦争におけるイスラエル戦車部隊の記録によれば、RPG-7の命中は被弾戦車の乗員が気づかないことすらあったのに対して、炸薬量の多い9M14マリュートカ対戦車ミサイル*1の命中は1発でも致命的だったそうです。

バズーカという愛称

f:id:lmacs510:20171126175709j:plain

「バズーカ」という名称ですが、これはM1ロケットランチャーの射撃姿勢が、当時人気のあった喜劇俳優ボブ・バーンズが使っていた巨大なトロンボーン「バズーカ」をイメージさせたために定着したものだと言われています。

f:id:lmacs510:20171126175749j:plain

なお、時々「バズーカ砲」なんて呼ばれることもあるのですが、細かいことを言うとM1はロケット弾を打ち出す発射器であって、「砲」ではありません。

ついでに、ボブ・バーンズがバズーカについて語る動画がありましたので、一応、リンクを貼っときます。

www.youtube.com

朝鮮戦争におけるバズーカ

前述の通り、朝鮮戦争ではM1の発展型であるM9や、口径を3.5インチ(89mm)に拡張したM20「スーパーバズーカ」が使用されています。

f:id:lmacs510:20171126180325j:plain
左がM20、右がM9

朝鮮戦争前、朝鮮半島は山が多くて起伏に富んだ地形であることから、アメリカは戦車よりも歩兵が有効と判断していました。そのため、韓国軍からの戦車の供与要望があったものの、米軍はこれに応じませんでした。
しかしアメリカの予想に反して、北朝鮮軍は大量のT-34戦車を先頭に立てて韓国への侵攻を開始し、戦車を保持しない韓国軍はこれに圧倒されることとなります。

朝鮮戦争勃発時、韓国軍はM9ロケットランチャーを装備していましたが、T-34には全く歯が立ちませんでした。
後、大田(テジョン)の戦いで、口径3.5インチでM9に倍する装甲貫徹力を持つM20ロケットランチャー、通称「スーパーバズーカ」が投入され、これによってようやくT-34の撃破が可能となります。

と、ここまでは「厚い装甲に歯が立たなかったけど、もっと強い武器を突っ込んだらイケたよ」という普通の話に思えるのですが、実のところ、当時のM9バズーカで使用されていたM6A3対戦車ロケット弾は最大5インチ(127mm)の装甲貫徹力があり、最大装甲厚90mmのT-34-85にも効果があるはずでした。にもかかわらず、M9が効果を発揮できなかった理由として、以下が推測されています。

  1. 北朝鮮軍のT-34成形炸薬弾の効果を減少させる装備をした。
  2. 使用されたロケット弾の炸薬に問題があり、性能が劣化していた。
  3. 成形炸薬弾は命中しても撃破する能力が低く、1〜2発の命中結果を効果なしと判断した。

項番1は、根拠も見当たらず真相不明です。
項番2は、スミス支隊のスミス中佐が語ったとされるもので、使用されたロケット弾が5年前の余剰兵器であったことから、割と有力視されてるようです。
項番3、全面的にこれを理由とするわけにはいかないでしょうが、ある程度該当するケースがあったと思われます。第四次中東戦争でも同様の指摘があったことは前述の通り。

おまけ:成形炸薬弾の余談

対戦車兵器に欠かせない成形炸薬弾ですが、旧日本軍でも、成形炸薬弾を用いた携行対戦車兵器である「刺突爆雷」なんてのがありました。

f:id:lmacs510:20171126180753j:plain

棒きれの先に成形炸薬弾がついてて、こいつを敵戦車に突き立てると爆発します。なお、戦車に接近するのも大変*2ですが、攻撃が成功しても大変*3な兵器でした。バズーカと比べると、割と悲しくなる「対戦車兵器」ではあります。
(一応、ドイツから提供されたパンツァーシュレックの図面をもとに「四式七糎噴進砲」という対戦車ロケット弾発射器を開発、終戦間際に実戦配備してます。通称「ロタ砲」。)

 

 

*1:NATOコードはAT3サガー。

*2:よく死ぬ

*3:よく死ぬ