Man On a Mission

システム運用屋が、日々のあれこれや情報処理技術者試験の攻略を記録していくITブログ…というのも昔の話。今や歴史メインでたまに軍事。別に詳しくないので過大な期待は禁物。

【戦争と兵器】成形炸薬弾とは【対戦車火器】

前回まで3つほど歩兵携行の対戦車兵器について記事を書きました。

【戦争と兵器】アメリカの対戦車兵器 バズーカ【ロケットランチャー】 - Man On a Mission

【戦争と兵器】ドイツの対戦車兵器 パンツァーファウスト【対戦車擲弾発射無反動砲】 - Man On a Mission

【戦争と兵器】ソ連の対戦車兵器 RPG-7【ロケットブースター付】 - Man On a Mission

これらの対戦車火器で用いられる対戦車用弾頭は、ほとんどすべてが成形炸薬弾となっています。
以前の記事でも触れましたが、対戦車ロケットや対戦車ミサイルの弾頭に成形炸薬弾が用いられるのは、弾着速度に関係なく大きな貫徹力が得られるためです。

今回は、この成形炸薬弾についてもう少し詳しく触れてみます。

成形炸薬弾ってなに?

成型炸薬は、炸薬(爆薬)を前方に円錐状の凹みを持つように成型し、その凹みに金属板の内張り(ライナー)を装着したものです。
これが爆発(爆轟)すると、発生した衝撃波(爆轟波*1)が円錐中心軸に集中、その圧力によりライナーを溶融させながら前方に細長い金属ジェット噴流(メタルジェット)を形成します。
(この現象をモンロー/ノイマン効果と呼びます。)
メタルジェットは秒速6000m以上の超高速で目標物に衝突し、超高圧により侵徹(穴を穿つ)することとなります。

なお、成形炸薬弾の挙動についてのシミュレーション動画がありましたので、参考まで。

www.youtube.com

ついでに、成型炸薬を実際に爆発させたやつも。

www.youtube.com

この成型炸薬を弾頭として利用するのが成型炸薬弾(shaped charge)です。メタルジェットを叩きつけることで装甲を貫通させるわけですね。
(よく勘違いされるのですが、細長く集中した炎で装甲板を溶かすというわけではありません。)
なお、成形炸薬弾はHEAT(High Explosive Anti-Tank)などとも呼ばれ、戦車の砲弾としても用いられています。
ちなみに、戦車用の成型炸薬弾について、最近は歩兵や非装甲車両などの軟目標(ソフトスキン目標)への破片/爆風効果も持たせた「HEAT-MP(多目的対戦車榴弾)」が使われることが多くなっています。これは、HEATの爆発エネルギーの70%が周囲に拡散されることを利用して弾体破片を飛散させるもので、どんな敵に遭遇するかわからない時などに装填しておく砲弾です。

戦車の悪夢

さて、成形炸薬弾の登場は、歩兵の対戦車戦闘能力を飛躍的に向上させることとなります。
前述の通り、成形炸薬弾では弾着速度に関係なく大きな貫徹力が得られるため、十分な威力を持つ、歩兵携行対戦車火器を実現できたからです。
これは、徹甲弾などの運動エネルギー弾による対戦車兵器では成し得ないものでした。
運動エネルギー弾を用いる対戦車砲で威力を向上させるためには、大型化/大重量化が必要となります。成形炸薬弾の登場は、後に対戦車砲を駆逐していくこととなります。

1名ないし少人数で運用可能な対戦車火器の登場は、戦車にとってはまさしく悪夢というべきものでした。
それまで歩兵は火炎瓶や爆薬包などで決死的かつ貧弱な攻撃手段で戦車に対していました。しかし、成形炸薬弾の登場により、歩兵個人による戦車の撃破が可能となったのです。
有効な対戦車火器を手にした歩兵は、視界の狭い戦車にとってかなり手強い敵となります。特に市街戦では、家屋内から戦車を狙い撃ちすることで威力を発揮しました。

余談ですが、「オールタンクドクトリン」を標榜し、戦車のみからなる部隊を決戦兵種として用いていたイスラエルは、第4次中東戦争において、エジプト軍歩兵の対戦車火網により戦車部隊を壊滅させられることとなります。
エジプト軍の対戦車火網は、ソ連製の対戦車ミサイル「9M14マリュートカ*2」を中心に、従来の対戦車砲RPG-7を組み合わせて構成されていました。9M14マリュートカは2000m以遠で戦車を撃破することが可能*3な上、小型で射向や陣地変換、掩蔽も容易、さらには射手とミサイル発射機を離して運用可能と、戦場となったシナイ半島の特性(平坦な砂漠)でも高い効果を発揮できました。当然ながら、9M14マリュートカの弾頭も成形炸薬弾です。

ちなみに、前にも書きましたが、成形炸薬弾の装甲貫通後の破壊力は徹甲弾などに比べると小さく、ターゲットを無力化できないこともあります。
成形炸薬弾の貫通後破壊力は概ね炸薬量に比例しています。
前述の第四次中東戦争におけるイスラエル戦車部隊の記録によれば、RPG-7の命中は被弾戦車の乗員が気づかないことすらあったのに対して、炸薬量の多い9M14マリュートカの命中は1発でも致命的だったとか。

スタンドオフ(最適距離)

成形炸薬弾のメタルジェットは、標的から適当な距離がないとうまく形成されません。この最適距離を「スタンドオフ」と呼びます。
スタンドオフは、金属ライナーの直径の3倍程度までの距離と言われています。成形炸薬弾では、スタンドオフを適切に保つため、前半部を長くしたり伸展式プローブを設けたりといった工夫がなされることがあります。

余計な余談

当ブログでは割と戦争関連の記事があるのですが、今まで「軍事」カテゴリを設けてませんでした。その理由は、軍事カテゴリを設けるほどには詳しくないから。
従来、戦争関連記事が主に太平洋戦争関連が多いこともあって、戦争やら兵器やら関連の記事もほぼ「歴史」カテゴリに突っ込んでます。
(じゃあ、歴史については詳しいのかというと、それも微妙なのですが。)
とはいえ、今回記事は歴史色も薄いので、諦めて軍事カテゴリを追加してみました。だからなんだという話ではありますが。

 

 

*1:ばくごうは。爆発によって生じる音速を超える衝撃波のこと。

*2:NATOコードネームはAT-3サガー

*3:静止目標に対する命中率は1000〜3000mで87%