Man On a Mission

システム運用屋が、日々のあれこれや情報処理技術者試験の攻略を記録していくITブログ…というのも昔の話。今や歴史メインでたまに軍事。別に詳しくないので過大な期待は禁物。

【戦争と兵器】成形炸薬弾とリアクティブアーマー【対戦車火器と戦車】

前回、成形炸薬弾についての記事を書きました。

oplern.hatenablog.com

上記記事では、成形炸薬弾を用いた小型の対戦車ロケットや対戦車ミサイルが登場し、歩兵の対戦車戦闘能力が飛躍的に向上したことに触れました。
成形炸薬弾は戦車の砲弾にも用いられており(対戦車榴弾、HEAT)、最近では非装甲目標にも効果があるように設計された多目的対戦車榴弾(HEAT-MP)が多くなっています。ちなみに日本の90式戦車では、装甲目標用のAPSFDS*1と多目的のHEAT-MPを半分くらいずつ搭載しているといわれてます。

しかし、一方が強くなれば、もう一方も対抗措置を取ってくるのが世の常で、成形炸薬弾の脅威に対し戦車もまた対策を施してきます。
対策は主に装甲の工夫として現れました。
例えば、スペースド・アーマー(中空装甲)。これは装甲板の間に隙間を設けて、成形炸薬弾が効果を発揮する最適距離(スタンドオフ)を狂わせ効果の減衰を狙ったものです。
他にもコンポジット・アーマー(複合装甲)なんかが挙げられ、これは非金属材料(セラミックなど)を含む複数種の装甲材で構成されます。セラミックは成形炸薬弾のメタルジェットで割れてしまいますが、この割れて微粉化したセラミックがメタルジェットの侵徹を阻害します。

さて、今回はそんな「戦車側の工夫」の中から、リアクティブ・アーマー(爆発反応装甲)を取り上げます。

リアクティブ・アーマー(爆発反応装甲)とは

成形炸薬弾に対して大きな防御効果を発揮する装甲が、リアクティブ・アーマー(爆発反応装甲)です。
リアクティブ・アーマーは増加装甲の一種で、ERA(Explosive Reactive Armor)とも呼ばれています。

リアクティブ・アーマーは、2枚の薄い装甲板で爆薬を挟んだ構造になっており、戦車の通常装甲の上に取り付けて使用します。
リアクティブ・アーマーに成形炸薬弾が命中すると、爆薬が爆発して装甲板が斜め上方に弾け飛び、これが成型炸薬のメタルジェットを阻害します。

リアクティブ・アーマーは、1970年代に西ドイツのマンフレート・ヘルド博士により考案されましたが、実際に装備化したのはイスラエル軍が最初となっております。ちなみに、1982年のレバノン侵攻で実戦投入されその有効性を実証しました。後には、ソ連/ロシア軍やアメリカ軍、フランス軍なども導入しています。

なお、リアクティブ・アーマーは一度爆発してしまうと、当然ながらその後は防御効果がなくなってしまいます。そのかわり後付けが容易という利点があるので、旧型戦車の防御力不足を補うために用いられることが多いです。現代では旧東側諸国の装備するT-72なんかに多く取り付けられています。

成形炸薬弾とリアクティブ・アーマーその後

さて、リアクティブ・アーマーが広がると、今度は成形炸薬弾を前後に2発つなげたタンデム式成形炸薬弾が登場します。タンデム式成形炸薬弾は、前方に配置された一段目でリアクティブ・アーマーを爆発させ、その後わずかな時間差で後方配置した二段目が爆発、すでにリアクティブ・アーマーを消耗した戦車に貫通させるというものです。
近年の対戦車兵器では、このタンデム式成形炸薬弾が多く用いられており、採用例としては対戦車無反動砲パンツァーファウスト3や、対戦車ミサイルHOT3、TOW2A、スパイクなどがあります。自衛隊の01式軽対戦車誘導弾でも使われています。

しかしながら、このタンデム式成形炸薬弾にも効果を発揮するリアクティブ・アーマーも登場しており、例えばロシアのリアクティブ・アーマー「コンタークト5」が挙げられます。
ちなみに「コンタークト5」は成形炸薬弾だけでなく、運動エネルギー弾であるAPSFDSにも効果があるといわれてます。弾け飛んだ装甲板がAPFSDSの弾体に対して横方向から強い力を加え、弾体を破砕し貫通力を失わしめるようです。

 

 

*1:装弾筒付翼安定徹甲弾