弾道ミサイルの基礎知識について語る、その5です。
そろそろ飽きてきているのですが、もうすこしだけ弾道ミサイルネタが続きます。
今回は弾道ミサイルが「どこから発射されるか」について。
ちなみに、前回までの記事は以下の通り。
【戦争と兵器】弾道ミサイルとは【基礎の基礎】 - Man On a Mission
【戦争と兵器】弾道ミサイルの命中精度【半数必中界(CEP)】 - Man On a Mission
【戦争と兵器】弾道ミサイルの燃料【液体燃料と固体燃料】 - Man On a Mission
【戦争と兵器】弾道ミサイルの軌道【ロフテッド/ディプレスト】 - Man On a Mission
ミサイル発射施設からの発射
映画などのフィクションで、基地のなかの地下の縦穴からミサイルが発射されるシーンなんかをご覧になったことがあると思います。
あれがミサイル発射施設からの発射です。弾道ミサイルが収納されている地下の縦穴は「地下サイロ」と呼ばれています。
初期の弾道ミサイルでは、地表で準備、続けて発射という形態も多かったのですが、これだと敵の攻撃に対して非常に脆弱となってしまいます。
これに対し、地下サイロは極めて頑丈に作られているため、高い防御力を持っています。
(割と近め(数百メートル程度)の核爆発にも耐えられるようになっています。)
サイロからの発射方式には、大別してホットローンチ方式とコールドローンチ方式があります。
ホットローンチ方式は、サイロ内でロケットブースターに点火、弾道ミサイルが自力で飛び出す方式です。燃焼ガスによってサイロが損傷するため、再使用には時間がかかります。
アメリカのタイタンIIやミニットマンなんかがホットローンチ方式です。
コールドローンチ方式は、弾道ミサイルが高圧ガスによりサイロ外に射出され、その後ロケットブースターに点火して飛んでいく方式です。米ピースキーパーなんかがコールドローンチ方式となっています。
ついでの余談。
アメリカが地下サイロ方式を採用したのはアトラスF型からなのですが、推進剤の問題から、地下サイロからの直接発射はできず、一度エレベータでサイロ外に出して発射準備、発射という手順をとりました。アトラスFは推進剤としてケロシン(燃料)と液体酸素(酸化剤)を使用していましたが、液体酸素は常温保存できず発射直前に充填する必要があったためです。注入には時間がかかり、発射準備には最低でも30分程度かかりました。
なお、アトラスFより前は、半地下式の発射施設(通称「棺桶」)が用いられており、こちらは弾道ミサイルを水平に格納、発射時にはミサイルを垂直に立てて打ち出す方式となっています。
移動可能な発射プラットフォーム
さて、防御力を高めるために地下サイロから発射できるようにしたものの、これでも十分ではありません。
実際にICBMを発射する場合、敵のICBMや関連施設を破壊し敵の報復攻撃の規模を低減させることが望まれます。
(弾道ミサイルは、核弾頭を搭載するにも関わらず命中精度を向上させてきましたが、その理由の一端はここにあります。)
ICBMの威力や命中精度が向上しICBM関連施設への攻撃の脅威が増すにつれ、より生存性が高い移動可能な発射プラットフォームでの運用が行われるようになりました。
(ちなみに短距離弾道ミサイル(SRBM)なんかでは、かなり早い段階で移動式発射プラットフォームが用いられています。ついでにいうと世界初の弾道ミサイルA4ロケットも牽引式の移動発射台により運用されていました。)
移動可能な発射プラットフォームは、大別して2種類が挙げられます。
ひとつはTEL(輸送車兼用起立式発射機)などの移動発射車両、もうひとつは潜水艦です。
TEL(輸送車兼用起立式発射機)
TELはミサイルを積載して発射地点まで移動、発射時にはミサイルを起立させ発射します。
移動可能なため、サイロ発射式に比べ秘匿性が高く脅威度が増します。
SRBMではありますが、スカッドTEL(MAZ-543P)なんかが一時期よく取り上げられました。ある程度の不整地走行能力を備え、発射地点についてから1時間以内の発射が可能と、敵の航空優勢下でも運用可能な兵器となっていました。
ICBMにおいては中国での運用が目立ち、例えばDF-31A(射程1万1200km)を搭載するHY4031が挙げられます。ちなみに、HY4031はオフロード走行性能がなく、道路移動を前提としています。移動発射式とはいえども運用能力は限定的といえるでしょう。
話題の北朝鮮もTELを使用していますね。TELを用いることで敵の先制攻撃を避けて移動することが可能となりますし、相手側からは地上配備核戦力の監視も困難になったりします。なかなか厄介なものです。
潜水艦 -SLBM-
海中を移動する潜水艦から弾道ミサイルを発射する方式で、潜水艦の秘匿性から高い生存性を持つこととなります。
なお長時間の潜航能力を持つことが望ましいため、通常、原子力潜水艦が用いられます。
TELよりも更に生存性が高い潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)は、現在において究極の兵器といえるでしょう。
ちなみに、現在SLBMを保有している国はアメリカ、ロシア、中国、イギリス、フランスそしてインドとなっております。
北朝鮮もシンポ級潜水艦での海中発射が成功したと発表していましたが、信憑性がいまいちです。