Man On a Mission

システム運用屋が、日々のあれこれや情報処理技術者試験の攻略を記録していくITブログ…というのも昔の話。今や歴史メインでたまに軍事。別に詳しくないので過大な期待は禁物。

【イギリス軍航空機】イギリス軍用機の試作開発【作戦要求と要求仕様】

前回記事にて、イギリスの傑作木製機モスキートについて書きました。

oplern.hatenablog.com

上記記事中にて、さらりと「要求仕様10/36に適合」だの「要求仕様1/40/DHを発行」だのと書いてるのですが、今回記事は補足としてこの「要求仕様」とやらがなんなのかについて書いておきます。

作戦要求と要求仕様

イギリスの空軍および海軍における新規航空機導入は、まず軍側で航空機に必要とされる各種能力の内容を検討するところから始まります。
軍側で検討された要求は、「作戦要求(Operational Requirement=OR)」としてまとめられ、航空省側に伝えられることとなります。
航空省は、その内容を精査して開発の是非を決定、必要と認められれば年度ごとに連番をつけた「要求仕様」を発行して航空機の試作・開発を行うことを決定します。

さて、新型開発の際に出される作戦要求の内容については、通常かなり細かい点まで指定されました。
例えば、「新型機就役までのつなぎとなる複座艦上戦闘機」の作戦要求「OR.56」に基づいて出された要求仕様「O.8/38」では、「全備重量は3972kg、水上機状態で4086kgを上限とする」とか、「最高速度は通常作戦高度3048mで426km/h以上とし、この速度域でも良好な運動性を持つこと」とか、「失速速度は全備状態で104km/h」とか、「発動機は中高度用過給器装備のマーリンエンジン」とかいったふうに指定されています。
なお、この要求仕様の「O」は機種類別記号で複座艦上戦闘機を意味し、「8/38」は1938年度に計画された8番目の機体であることを示しています。
(ただし、既存機改造や用途変更では機種類別記号がつかない場合もあります。)

この要求仕様は、複数の航空機メーカーでコンペさせる場合、メーカー指定で発行されることはありませんが、すでに原型となる機体がある場合や、試案精査後に試作機製造を命じる場合などにはメーカー指定で発行されることがありました。

時にはメーカー側が自社開発した機体の試案が軍に提出されることがあり、前回取り上げたモスキートなんかはその例となります。
この場合、試案の内容を軍が検討した上で、それが有用と判断されれば、その試案に沿った要求仕様を発行して試作・生産が行われることとなります。
ちなみに前回も触れましたが、イギリスで名機と呼ばれる機体の多くはメーカーの自主開発機だったことから、「英国の飛行機は軍の要求で開発した機体より、自社開発機の方が出来が良い」と言われたりします。
なんども空軍から拒否られながらも、生産にこぎつけた後には第二次大戦時のイギリス機を代表する傑作機となったモスキートなんかはその最たる例といえそうです。

イギリス軍の航空機機種類別記号 一覧

さて、要求仕様に付与される機種類別記号についても掲載しておきます。

F:戦闘機
B:爆撃機(攻撃任務充当予定の飛行艇も含む)
E:特殊試験機(ジェット戦闘機などの秘匿のため用いられた)
T:練習機/連絡機
C:輸送機
A:直協機
M:陸上雷撃機
H:陸上双発雷撃機
S:観測機/偵察機(艦上雷撃機や水陸両用機も含む)
O:複座艦上戦闘機(艦船兼艦爆、他の海軍観測機)
Q:標的機
R:偵察機飛行艇含む)
PR:写真偵察機
N:海軍機全般(1939年以降例外あり)
P:爆撃機

ちなみに、モスキートに対し最初に発行された要求仕様はB.1/40、戦闘機型モスキートへの要求仕様はF.21/40でした。