Man On a Mission

システム運用屋が、日々のあれこれや情報処理技術者試験の攻略を記録していくITブログ…というのも昔の話。今や歴史メインでたまに軍事。別に詳しくないので過大な期待は禁物。

【第二次大戦】海軍とアイスクリーム【日本とアメリカ】

前回、日本海軍の士官に対するテーブルマナー教育について触れました。

oplern.hatenablog.com

テーブルマナー教育の関係から、海軍では士官(と准士官)に対しては洋食フルコースの食事が出たりしたのですが、当然ながら下士官や兵についてはそんな贅沢な食事は出てきません。
しかしながら、軍では、兵員の士気と健康を高い水準で保つ必要から栄養豊富かつ味の良い食事の提供は極めて重要であり、食事には様々な工夫がこらされました。
日中戦争以降の陸軍や、太平洋戦争後期の海軍は、それどころじゃない状態に陥ったりしますが…。)

厳しい生活環境のうえ娯楽らしい娯楽もない海軍艦艇内では、通常の食事以外に、各種の嗜好品も士気低下の抑制に役立ちました。
各嗜好品は、艦内の酒保(売店)で販売され、例えばビールや日本酒、サイダー、タバコ、菓子などを入手できます。酒類やタバコはともかく、サイダーや菓子といった、甘味も人気がありました。

日本海軍の有名な給糧艦(食糧を供給する輸送艦)である「間宮」では、充実した食品製造設備により長期保存の難しい豆腐、こんにゃく、パンなどが製造されていましたが、それらの作業の片手間で作っていた菓子類が好評を博したため、年ごとに菓子製造量が増加することとなりました。
間宮の提供する菓子としては「間宮ようかん」が特に有名ですが、これと双璧をなしたものにアイスクリームがあります。

…というわけで、今回記事は日米海軍とアイスクリームにまつわるちょっとした話を。

間宮のアイスクリーム

アイスクリームは一般的に牛乳または生クリーム、卵、砂糖から作られますが、間宮では、食中毒を防ぐために卵は使用しません。また、牛乳は長期保存出来ないため、代わりにエバミルク(無糖練乳:牛乳を濃縮したもの)を用いました。エバミルクは水で希釈すると凍らせた際に水分が分離するため、粘度の高い原液のまま使用したとか。
味付けには、香料や果物、抹茶などを使ったようです。

製造したアイスクリームは、主に艦隊各艦の士官室や酒保向けに専用の魔法瓶で供給しました。
特に南洋の赤道直下の猛暑では、若い将兵に大人気だったそうです。

米海軍のアイスクリーム

米海軍でもアイスクリームが供されていました。第二次大戦時のアメリカ海軍料理書では、アイスクリームはアメリカ人がもっとも好むデザートの一つで、栄養価も高いので海軍のメニューの定番にすべきと記されています。
アイスクリーム・ミックスに水を加えて作るのが基本で、何種類ものフレーバーがありました。味付けには果物(生または冷凍)やジュースなどが使われています。

艦艇にアイスクリーム製造機が導入されたのは1906年のことで、戦艦「ミズーリ」に設置されました。
アイスクリーム製造機が設置されるのは、設備上の制約から空母や戦艦などの大型艦であり、例えば駆逐艦なんかには設置されていません。
とはいえ、アメリカは将兵士気の維持において、アイスクリームを重要視していましたので、1944〜1945年には、陸軍のアイスクリームを製造できる大型冷蔵艀を太平洋や大西洋に曳航し、駆逐艦などの乗組員に対してアイスクリームを供給したりもしてます。

さて、大型艦では、アイスクリームなどを食べられるゲダンク・バー(スイーツ・パーラー)が設けられていましたが、そこではアイスクリームをもらうために階級に関係なく並ぶことが不文律となっていました。
アイスクリームの行列について、戦艦「ニュージャージー」からのエピソード。二人の新任少尉がアイスクリームを待つ列に割り込んだところ「列に並べ!」と叱られたのですが、叱ってきた相手は、なんと列に並んで自分の番を待っていたハルゼー提督だった、なんて話があります。

ちなみに、当時のアメリカ海軍料理書に載るアイスクリームは、バニラのほか、アプリコット、バナナ・ナッツ、チェリー、チェリー・ナッツ、チョコレート、コーヒー、デーツ、グレープ、ピーチ、パイナップル、パイナップル・グレープ、ピスタチオ、ストロベリー、メープル、ウォルナッツ・メープルなどのフレーバーが紹介されてるそうです。ちょっと多すぎない?

第二次大戦中は、乳製品の欠乏により各国がアイスクリーム製造を中止したりするのですが、アメリカは供給し続けたなんて話もあって、アメリカのアイスクリーム好きがうかがえますね。

主な参考資料

本記事を書くにあたり、以下の書籍を主な参考資料にさせて頂きました。

海軍さんの料理帖

歴史群像 2017年 08 月号

上記「歴史群像」の記事、「戦士の食卓」