Man On a Mission

システム運用屋が、日々のあれこれや情報処理技術者試験の攻略を記録していくITブログ…というのも昔の話。今や歴史メインでたまに軍事。別に詳しくないので過大な期待は禁物。

【戦前用語の基礎知識】特務機関とは【旧日本軍】

最近、通州事件とその関連で冀東政権についての記事をいくつか書きました。
前回は、日本(というか関東軍)の傀儡政権である冀東防共自治政府の成立経緯について触れています。

oplern.hatenablog.com

冀東防共自治政府は、華北5省を中国国民政府の支配から切り離すことを目的とした華北分離工作の末に誕生したわけですが、この工作については、奉天特務機関長の土肥原賢二(どいはら けんじ)が行っています。

日本軍の特務機関は、現在、スパイ・特殊工作組織としてのイメージが定着していますが、本来「特務機関」という言葉に諜報・謀略的な意味合いはありませんでした。
本日記事は、この「特務機関」の本来の意味と、それが諜報・謀略機関を指すことになる経緯について。

特務機関の本来の意味

大日本帝国には、実のところ、「陸軍」という統一的集団または機関は存在しませんでした。
大抵の方は、「陸軍」という統一的組織があり、その頂点となる最高指揮官のもと各組織が存在する、というイメージを持っているかと思うのですが、さにあらず。
軍隊やら官衙やらという諸々の機関が天皇に直隷する形で存在しており、これら全体を「陸軍」と総称していたのです。

諸機関は、通常、軍隊・官衙(かんが)・学校・特務機関に分類されました。
軍隊とは、師団とか連隊、憲兵隊などの部隊であり、官衙とは陸軍省などの役所、学校は陸軍大学校陸軍士官学校などを指しています。

じゃあ「特務機関」はなにかというと、軍隊・官衙・学校以外の陸軍の三区分いずれにも属さない機関、いわば「その他」のことを指していました。
具体的には、元帥府・軍事参議院・侍従武官府・東宮武官・皇族王公族付武官・陸軍将校生徒試験委員・外国駐在員などです。

ところが、1918年(大正7年)のシベリア出兵に際して、統帥範囲外の軍事外交の情報収集などにあたる機関を「特務機関」と称するようになり、以降、特務機関が諜報・謀略機関の別名となってしまいました。

諜報・謀略機関としての特務機関

1918年(大正7年)のシベリア出兵では、政治・軍事情報の収集やら、過激派分子の監視摘発、避難露人の救恤、宣伝、外国軍との折衝などなど、純作戦以外の種々の問題が起こったことから、翌1919年2月、これらの問題を解決するため、参謀部に軍事外交機関を設けることとなります。
この際、当時のオムスク機関長高柳保太郎(たかやなぎ やすたろう)少将の発案により、この軍事外交機関が「特務機関」と名付けられました。
実際には、情報収集や過激派分子摘発、さらには後方撹乱などの謀略は、上記の「特務機関」が始まりというわけでもなく、明治のころより萩野末吉中尉や福島安正少佐、有名な明石元ニ郎大佐らによって行なわれています。
連綿と続いていた情報業務・諜報工作組織に「特務機関」という名称が使われたのが1919年だった、というわけですね。

ちなみにこのときの特務機関は、ウラジオストク、ニコリスク、ハバロフスク、ブラゴベシチェンスク、チタ、イルクーツク、オムスク、ハルピンがありました。
その後は、情勢の変化に応じて拠点が変わっていきますが、前回も触れた奉天特務機関やハルピン特務機関なんかは有名ですね。
なお、ハルピン特務機関は、1940年(昭和15年)4月の関東軍情報部創設にともない「情報本部」となり、その他の各地特務機関は情報支部となります。しかし、正式名が変わっても、そのまま「特務機関」が通称として用いられていました。

1940年(昭和15年)ごろの(諜報・謀略機関としての)特務機関は、チャハル、ハイラル、黒河、大連、牡丹江、延吉、大同、ウラジオストク、ベルリン、上海、河北、南京、天津、山東、漢口、香港、北京等々、キリがないのでこのへんにしときますが、各地に設置されており、少将から大尉までが特務機関長となっています。

ちなみに、日本軍の階級には、陸軍「特務曹長」、海軍特務士官」なんてのがありますが、これらは特務機関に関係するものではなく、諜報やら謀略やらを行なう役割というわけではありません。

ついでに、関東軍関係以外の有名な特務機関について少し触れておきます。

F機関

参謀本部所属の藤原岩市少佐を長とするインド人工作機関。マレー進攻作戦などで活躍。

南機関

1941年1月、鈴木敬司大佐大佐を長として設立されたビルマ工作機関。ビルマ民族運動を利用してビルマ援蒋ルート遮断工作を進めていました。

蘭工作

支那派遣軍総司令部を設置遺構、総司令部付の和知鷹ニ大佐をして、西南派中国将校等の反蒋和平工作などを行っていました。

主な参考資料

本記事を書くにあたり、以下の書籍を主な参考資料にさせて頂きました。

戦時用語の基礎知識

事典 昭和戦前期の日本―制度と実態