Man On a Mission

システム運用屋が、日々のあれこれや情報処理技術者試験の攻略を記録していくITブログ…というのも昔の話。今や歴史メインでたまに軍事。別に詳しくないので過大な期待は禁物。

【日本軍】陸軍将校 退職後の生計【恩給・再就職】

しばらく前から、日本陸軍の給料についてしつこく記事を書いてきました。
一応、一区切りついて、前回はまとめ記事を書いてます。

oplern.hatenablog.com

上記など、一連の記事を読まれた方は、想像よりも少ない給料だと感じた方が多いのではないでしょうか。
最高階級の大将でも年俸6600円(現代換算約1320万円)、大佐4150円(現代換算約830万円)です。
大尉は1等でも1900円(現代換算約380万)、少尉になると850円(現代換算170万円)に過ぎません。

とはいえ、当時、収入のひとつの「基準」といわれていたのは「月収100円」または「年収1200円」であり、さらに、実際の昭和6年の勤労者世帯収入は80円(現代換算:16万円)程度、農家に至っては45円(現代換算:9万円)です。
現代に比べると国全体が貧しかったこともあって、今の基準で考えるべきではないかもしれません。
(とかいいつつ、当時でも「貧乏少尉、やり繰り中尉、やっとこ大尉」という言葉がありましたが。)

思ったより給料が少なくても、とりあえず現役で働けてるうちはよいのですが、陸軍将校ら「職業軍人」には、階級ごとに現役定限年齢というものが定められています。
これが何を意味するかというと、進級出来ずに定められた現役定限年齢、例えば少尉は満45歳、少佐は満50歳に達すると、現役を去ることとなりました。ここでいう「現役を去る」とは、予備役に編入されることを意味しており、これは平和な時期においては実質的な退職です。
(実際には現役定限年齢まで留まることはなく、もっと早い時点で、進級出来る者は進級し、そうでない者は予備役に編入されました。)
以前には、こういった陸軍将校の退職についても記事を書いています。

oplern.hatenablog.com

階級ごとの現役定限年齢について詳細は上記記事をご覧頂きたいのですが、大体、将官だと60歳前後、佐官なら50歳代、尉官なら40半ばといった感じでした。
将官に進級できた人以外は、割と早く退職になってしまうわけですね。
ちなみに、平時の定員では、中佐進級までに士官学校同期の3分の1が整理され、軍を去ることとなったようです。大佐になれるのは2割〜3割で、さらに将官まで進級できるのは1割程度でした。

陸軍将校の出世から予備役編入までの経歴については、以下の記事にて普通の軍人とエリート軍人様の2例を挙げています。

oplern.hatenablog.com

いけ好かないエリート軍人様は将官まで昇るので現代の定年と大差ない年齢まで現役ですが、普通の軍人は、50歳前後で予備役編入となることが多いです。

では、早い年齢で現役を退いた陸軍将校は、その後、どのように生活に必要な収入を得ていたのでしょうか。
本日記事は、退職後の陸軍将校の生計の立て方について。

退職後の収入

本題に入る前に、平時における将校の「退職」といえる、予備役・後備役・退役について少し説明を。
「現役の将校」というのは、普通にフルタイムの専従者として軍隊に勤務している状態ですが、これに対して予備役・後備役は、普段は民間で生活を送り、必要があれば軍に戻り一定期間指定される職務につくものです。予備役・後備役のものを軍に呼び戻すことを召集といい、召集解除後は元の生活に戻ることになります。なお、予備役・後備役では、一応、予備役の方が優先的に召集されました。
現役・予備役・後備役のいずれにも入らない者を退役と言い、こちらになると、予備役・後備役のように召集されたりはしません。
なお、将校は終身官ですので、退役しても退官しない限りは軍人のままです。なので、陸軍大将とか陸軍中将とかの官名を保持し、終生軍服を着け、階級に相当する礼遇を受ける権利を有しました。
そんなわけで、今回取り扱う「退職後の将校」というのは、具体的には予備役・後備役・退役将校のことを指しています。

これら退職後将校の収入の得方については、資産運用とか土地収入があるとかの個別的ケースを除くと、再就職して普通に働くことで給料をもらう、「恩給」による支給を受けるというのが一般的なものでした。

再就職

まずは、再就職して普通に働いて収入を得る方法です。
とはいえ、今まで軍隊という特殊な組織に属していた軍人が、40半ばとか50歳前後とかで再就職しようとしても、そう簡単にできるものではありません。
そこで、退職した軍人の就職支援が行なわれています。

就職支援は、財団法人義済会*1により行なわれています。事業として陸軍在郷将校および将校相当官の就職に関する仲介を行っていますが、この仲介には、各種の講習会開催も含まれていました。

講習会は、実業に関する一般的な知識を付与するための実業講習会や、建築技術員養成講習会、土木技術員養成講習会、農芸講習会、養鶏講習会などが開催されました。
建築技術員養成講習会、土木技術員養成講習会の第1回目、第2回目なんかは、タイミングが関東大震災の復興需要と合致したため、求職者のほとんどが就職できたようです。

他に、大正軍縮で退職した将校に対する就職支援として、中等教員養成教育なんかも行なわれました。
選抜試験に合格した将校に一定期間の講習を受けさせ、その修了者に、成績審査の上、無試験で師範学校、中学校、高等女学校教員の免許を授与するというものです。
これは当初陸軍省が、後には義済会により行なわれました。
当時、慢性的な教員不足という状況もあって、講習修了者の就職状況は概ね良好だったそうです。

恩給

次は恩給について。

恩給制度の源流は明治初期にまで遡ることができますが、当ブログは、一応昭和から太平洋戦争のあたりをメインに取り扱ってますので、今回は1923年(大正12年)成立の「恩給法」をベースに語ります。

恩給は、公務員の在職中の服務に応じて、使用者である国から公務員や公務員の遺族に支給される金銭的給与であり、戦前の官吏にとっては大きな特典でした。
特に、武官は文官よりも優遇されています。ちなみに、恩給の予算計上や支払いは逓信省が担当していました。

「恩給法」による恩給としては以下が挙げられます。

  • 普通恩給
  • 増加恩給
  • 扶助料
  • 一時恩給
  • 傷病賜金
  • 一時扶助料

今回は「恩給法」の記事ではありませんので、上記全てに触れることはせず、代表的なものだけ取り上げます。

まず、普通恩給について。
公務員が普通に現役引退した後、年金受給するものが普通恩給で、公務員が一定年限在職したか、または公務により心身に著しい障害を負った場合に受給権を得ます。
軍人の場合、普通恩給は、准士官以上および下士官兵とも、11 年以上在職すると受給権を得ました。
ただし、昭和8年に「恩給法」が改定され、以降は准士官以上が13年、下士官以下は12年在職が必要となっています。
予備役編入となっても、その翌月から恩給が支給されるため無収入の状況になることはありません。

ちなみに、公務員が上記の恩給年限に達しないで退職した場合には一時恩給が支給されました。こちらは、下士官以上として1年以上(昭和8年改定後は3年以上)在職すると受給権を得ます。
「一時恩給」の名前の通り、年金ではなく一時金となっています。

扶助料についても少し。
これは普通恩給を給される者または普通恩給を受ける資格があるものが死亡した場合と、公務員が戦闘・公務により死亡した場合に、その遺族に支給される年金的給与です。
戦死の場合には普通恩給の全額、公務死の場合は半分、普通死の場合は3分の1を標準として支給されました。

これら恩給の金額算出には細かな規定があります。もし興味があれば、毎度おなじみアジ歴で恩給法を漁って見ることをお勧めしますが、一応、当記事でもざっくりながら説明を。
恩給法制定時には、階級区分と在職年数に応じた一覧表(第一号表)が定められてて恩給額がいくらになるのか分かりやすかったのですが、昭和8年に改定され、退職前の1年以内の「俸給」総額を基礎として計算する方法に変更されました。
なお、計算の元となる「俸給」総額については、軍人および準軍人の場合、別表第一号表にて定めるものとされています(第59条の2)。

当ブログでは、ここ最近、昭和9年時点の陸軍軍人の給料についてしつこく追ってきましたので、それに合わせて、昭和9年頃の退職将校を想定して普通恩給の金額例をいくつか挙げてみます。
あまり細かな規定までは考慮しませんのでざっくりしたものではありますが、一応の参考まで。

まず、昭和8年改定後の普通恩給額は、「恩給法」第61条に准士官以上、第61条の2に下士官以下の計算方法が述べられています。
今回は将校を対象にしますので、第61条を見ると、
「普通恩給ノ年額ハ在職十三年以上十四年未満に対シ退職前ノ俸給年額ノ百五十分ノ五十ニ相当スル金額トシ十四年以上一年を増ス毎ニ其ノ一年ニ対シ退職前ノ俸給年額ノ百五十分ノ一ニ相当スル金額ヲ加ヘタル金額トス」
とあります。

将校の経歴はエリート軍人様が大将〜少将で予備役となったケース、普通の軍人が大佐〜少佐で予備役編入となったケースを想定して例示することにします。

エリート軍人様

まずいけ好かないエリート軍人様。
大将〜少将で予備役編入となった想定で、在職年数35年で計算しています。

大将:3600円(現代換算約720万円)

中将:3120円(現代換算約624万円)

少将:2688円(現代換算約538万円)

普通の軍人

お次は普通の軍人。
こちらは大佐〜少佐までですが、在職年数は大佐・中佐が26年、少佐が23年として計算しています。

大佐:1932円(現代換算約386万円)

中佐:1659円(現代換算約332万円)

少佐:1300円(現代換算約260万円)

ついでに、なかなか進級できずに大尉で退職となった場合も挙げておきましょう。在職23年として計算します。

大尉:940円(現代換算約188万円)

退職軍人の再就職状況

さて、退職軍人の再就職と恩給について触れてきました。

退職軍人は、働かなくとも恩給による収入はあったわけですが、そのような制度下で、実際にはどの程度の退職軍人が再就職していたのでしょうか?
残念ながら、退職軍人の再就職状況に関する史料は少なく、あまりはっきりしたことはわかっていません。
偕行社などでわずかに記録が残ってますが、それらを参考にすると、あまり再就職する割合は高くなかった模様。
陸軍少将の那須義雄によれば、大尉、少佐級で稀に就職した程度とのことで、一応、恩給で暮らしていけたこともあって再就職には消極的な者が多かったようです。

 

 

*1:現役将校の親睦団体である偕行社の付属事業としてスタートし、1925年(大正25年)に偕行社から独立、財団法人義済会となりました。