Man On a Mission

システム運用屋が、日々のあれこれや情報処理技術者試験の攻略を記録していくITブログ…というのも昔の話。今や歴史メインでたまに軍事。別に詳しくないので過大な期待は禁物。

【船舶信号】旗旒信号と発光信号【国際信号旗】

前回記事では、日本軍の豊富すぎる戦争犯罪事例から「ビハール号事件」を取り上げました。

oplern.hatenablog.com

「ビハール号事件」は、1944年3月、重巡洋艦「利根」艦上において、ビハール号を撃沈した際に収容した捕虜60名以上を殺害した事件です。
詳細が気になる方は上記記事をお読み下さい。

ビハール号撃沈は、インド-オーストラリア間の海上交通破壊と敵船舶の捕獲による輸送力増強を目的とする、「サ第一号作戦」にて生じました。
本来の目的は撃沈ではなく拿捕だったのですが、「利根」側言い分によれば、捕獲して連行できる限界線より遠かったことと、ビハール号が自沈退船を始めたからやむなく撃沈したということです。

前回記事にも書いた通り、「利根」は、ビハール号攻撃の前に、旗旒(きりゅう)信号と発光信号により国際信号を送っているのですが、「我は米国巡洋艦なり」だの「貴艦に手渡す郵便物あり」だのと内容があからさまに怪しかったせいか、ビハール号がこれに応ずることはありませんでした。
まあ、内容はともかく、上記記事では、この旗旒信号と発光信号について特に説明していませんでしたので、今回記事で簡単ながら取り上げたいと思います。

どこに需要があるんだと思わなくもないのですが、そもそも当ブログには、高い需要を持つ記事など大してありませんので、平常運転といえなくもありません。
ちなみに、特に私の心に残る低需要記事としては、水滸伝と大砲の話とか、治安維持法にまつわる事柄を書いた記事なんかがあります。めったなことじゃ読まれねえぜ!

……つい話がそれてしまいましたが、次節より需要のない旗旒信号と発光信号についての説明を。

船舶信号

まずは、前提知識となる船舶信号について少し。

海上交通においては、船舶間や船舶-陸上間での交信用として、なんらかの通信手段が必要となります。無線通信などの技術が発達した現代はともかくとして、それらの技術が登場する前だと、旗などの視認による通信(視覚信号)、汽笛などを用いた音響による通信(音響信号)なんかが用いられました。
海上を航行する船舶は、有事に備えていかなる場所・場合においても、海上船舶や航空機、陸上施設などとの通信可能性を保持する必要があるため、これらの通信手段は現代においても用いられます。

今回取り上げる旗旒信号、発光信号は、視覚信号に含まれるものです。

旗旒信号

旗旒信号は、旗を掲揚することで行なう交信です。
旗は、受信局(受信者)から最も見えやすいところ、すなわち、旗旒がよく開き、甲板上の構造物その他の妨害を受けないところに掲揚しなければなりません。
旗旒信号を行なう場合、原則として、送信局(送信者)が一つの信号を掲揚した後、受信局の応答を得てから、次の掲揚に移ります。
(細かな手順については、「旗と船舶通信」などの書籍をご参照ください。)

旗旒信号では、国際信号旗を用いて国際信号書に則った信号を用います。
(行政官庁の定める規約も用いられます。)

国際信号旗は、海上において船舶間での通信に使われる信号旗のシステムで、アルファベットの文字旗26枚、数字旗10枚、代表旗3枚、回答旗1枚の合計40枚で構成されます。
国際信号書では、言語の違いなどに関わりなく意思の疎通を図るために、あらかじめよく使われる文例を1~3文字の記号に割り当てています(符字信号)。

少し例を挙げてみましょう。

1字信号の例

A:アルファ 当船で潜水夫が活動中。徐速して通過せよ。
B:ブラボー 危険物の運搬、積み降ろし中。
C:チャーリー 了解。
Z:ズールー 引船を求む。海上では投網中。

2字信号の例

NCの順に並べて掲げると、遭難信号。

UTの順に並べて掲げると、行き先を求む。

DXの順に並べて掲げると、沈没中。

DVの順に並べて掲げると、漂流中。

国際信号旗を掲げておけば、その船の火災、操縦困難、試運転、投網中など、状態を周りの船舶に知らせながら航行・停泊できるわけです。便利ですね。
ちなみに、基準となる符字信号に1桁の数字を付け加えて、基準信号を変化させる用法が多いです。例えば、上記UT(行き先を求む)に1を付けてUT1にすると、どこから来たかを尋ねる信号となります。

さて、文字旗、数字旗はともかく、代表旗、回答旗については説明が必要でしょうか。

まず代表旗ですが、こちらは、信号旗を一組しか備えていない場合に、代用として使用するものです。第一〜第三代表旗まであり、第一代表旗は1文字目の代用、第二は2文字目の、第三は3文字目の、といった具合に使用します。
例えば、A-Aとつづる場合は、A旗と第一代表旗を並べて掲げ、A-B-C-Bとつづる場合は、A旗、B旗、C旗と第二代表旗を並べて掲げるわけです。

次は回答旗ですが、こちらは了解したことを示す旗で、送信局からの信号を認めたら回答旗を半揚(at the dip)、その信号を了解したら回答旗を全揚(close up)といった具合に用います。なお、送信局の信号が降ろされたら、受信局は回答旗を半下(at the dip)します。
送信局の信号が全部終わるまで、半揚と全揚を繰り返しながら受信しますが、受信局が送信局の信号旗を識別できない時は、回答旗を半揚にしたまま、適当な信号で送信局にその理由を知らせます。例えば、送信局が通信文の符字化や信号旗の使用を誤った場合、回答旗半揚のまま、符字信号ZL「あなたの信号を受信したが理解できない」やZQ「あなたの信号は間違って符字化されているようである。調べて全文を再送されたい」を掲揚します。

通信到達距離は、当然ながら旗の大きさや視界状況その他により左右されますが、標準的な距離としては、中型の旗(方旗で横168cm縦137cm)掲揚、7倍双眼鏡使用時で約5km以内、20倍双眼鏡だと約8km以内だそうです。

発光信号

さて、お次は発光信号について。

国際信号書による発光信号は、国際モールス符号を用い、灯光を点滅するか、または隠顕することにより信号を発します。
点滅というのは、そのまんま光源を点滅させることですが、隠顕とは、光源はそのままにシャッターなどの開閉により光の明滅を行なうものです。灯光点滅型は比較的小型、小光力のもので、隠顕型は大型、大光力のものが多いです。

信号はモールス符号を用いるので、短符、長符を組み合わせることになり、長符の長さは短符の3倍と規定されています。
ちなみに、国際モールス符号の基準送信速度は1分間に40字ですが、実際には距離や視界、送受信者の技量などで変わってきます。

おまけ:旗

おまけというか、ついでというか、船舶で用いられる旗についても少し。

船舶や港湾施設に掲揚される旗は、船舶間や船舶-港湾施設間で情報のやり取りを行なう役割があります。

大航海時代では、船の活動範囲が拡大し、寄港間隔も長くなったため、海上で使う旗の重要性が高まりました。16世紀~18世紀にかけて欧州を中心としてさまざまな旗が作られており、航海者たちは各地の港や公海上で、船に掲げられた旗から、ある程度、身元が判別できるようになっています。

イギリスでは、陸上で使う国旗とは別に、軍用、官用、民用と用途別に3種類の海上旗を設けました。1707年には現在の英国白色船舶旗(軍用)、英国青色船舶旗(官用)、英国赤色船舶旗(民用)の原型が作られています。

なお、現在の一般的習わしでは、軍艦は艦首に艦首旗、マストに就役旗(長旗)、階級旗を掲げ、民間船舶は船首に社旗、船尾に民用海上旗ないし国旗、レーダーマストに行先旗(向かう国の国旗)を掲げることとなっています。

興味のある方は、以下の書籍などどうぞ。

世界海事旗章図鑑 旗から見える海の世界史

最後に

さて、需要の見込めない旗旒信号、発光信号についてつらつらと書いてきました。
国際信号旗の他の符字信号については、英語版というか米国版が以下からダウンロードできますので、詳しく知りたい方はどうぞ。国際信号旗の図も掲載されています(Cover)。

msi.nga.mil