Man On a Mission

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【日本海軍】海軍の軍法会議【陸軍との違い】

前回、前々回にわたって、軍法会議について日本陸軍の制度を中心に取り上げました。

oplern.hatenablog.com

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もののついでに、今回は、日本海軍の制度について取り上げます。

とはいえ、実の所、陸軍と大して変わらなかったりしますので、以前の記事から引用しつつ海軍ではこうでした、という、陸軍との差異を中心とした形式でお送りしたいと思います手抜きではありません。

なぜか、いつも過大評価されがちな日本海軍ですが*1、その軍法会議はどのようなものだったのでしょうか。

軍法会議日本海軍)

さて、海軍の軍法会議も時期によって変化してるわけですが、当記事では、陸軍と同じく太平洋戦争あたりの時期を対象としています。

まず、日本陸軍軍法会議には、常設軍法会議と特設軍法会議がありましたね。以下、以前の記事より引用。

軍法会議には、「常設」と「特設」の二種類があります。 常設軍法会議としては、高等軍法会議、軍軍法会議、師団軍法会議が、特設軍法会議としては合囲地軍法会議および臨時軍法会議がありました。

【日本軍】軍法会議を(ちょっとだけ)知ろう【軍事司法】 - Man On a Mission

海軍も同様に常設/特設の二種類があります。

海軍の常設軍法会議としては、高等軍法会議東京軍法会議鎮守府軍法会議要港部軍法会議(後、警備府軍法会議)が、特設軍法会議としては艦隊軍法会議合囲地軍法会議臨時軍法会議がありました。

常設軍法会議

常設軍法会議は、平時・戦時を通して常設されます。
常設軍法会議は陸軍と同様に二審制となっており、始審が東京軍法会議鎮守府軍法会議、要港部軍法会議で、上告審が高等軍法会議でした。

高等軍法会議は上告審なのですが、将官、勅任文官、勅任文官待遇者といったおエライサンの犯罪については、そもそもから高等軍法会議で裁かれます。
これは軍法会議裁判権が、指揮権の一部とみなされるためです。指揮権に含まれるということは、階級が下の者は、階級が上の者を裁いたりできません。そのため、海軍大臣が長官を務める高等軍法会議によって裁かれることとされました。この場合は上告先がないので、必然的に一審制となります。

始審である東京軍法会議鎮守府軍法会議、要港部軍法会議のうち、鎮守府軍法会議、要港部軍法会議は、それぞれ鎮守府、要港部に設けられました。
鎮守府軍法会議の長官は鎮守府司令長官が、要港部軍法会議の長官は要港部司令官が充てられます。
鎮守府軍法会議、要港部軍法会議は、それぞれ鎮守府司令長官/要港部司令官の部下、あるいは監督下にある者が犯罪を犯した場合に、これを裁きました。
また、海軍軍人・軍属等が当該区域内で犯罪を犯した場合や、別区域で犯罪を犯して鎮守府海軍区内/要港部警備区内に居る場合も対象とします。
他に、特設軍法会議である艦隊軍法会議から事件の移送を受けた場合も管轄としました。

東京軍法会議横須賀鎮守府内に設けられ、派遣や出向など、主に東京在勤者を対象としたようです。

特設軍法会議

特設軍法会議のうち、合囲地軍法会議、臨時軍法会議については陸軍と同様です。以下、以前の記事より引用。

特設軍法会議のうち、合囲地軍法会議は敵の包囲下や攻撃下で、合囲地境戒厳が布かれたときに設けられるものとされていました。 実際には開設されることなく敗戦を迎えています。 もう一つの臨時軍法会議は、戦時や事変などの非常のときに臨時に設けるものとされていました。

【日本軍】軍法会議を(ちょっとだけ)知ろう【軍事司法】 - Man On a Mission

合囲地軍法会議は、陸軍同様、実際に設けられたことはありません。
臨時軍法会議は、海軍の根拠地隊など主に陸上部隊に特設されました。

海軍の特設軍法会議には、合囲地軍法会議、臨時軍法会議の他に、艦隊軍法会議があります。
艦隊軍法会議は、艦隊司令長官、独立艦隊司令官、分遣艦隊司令官の率いる艦隊、または海外へ派遣する軍艦に設けることができました。

太平洋戦争では、戦線拡大や戦局悪化、兵員増大などに伴い、海軍の軍紀は陸軍同様に弛緩していきますが、それにより艦隊軍法会議の庁数も増加しました。
1943年(昭和18年)には、特設軍法会議が19庁となり、そのうち18庁が艦隊軍法会議となっています。ちなみに、残り1庁は臨時軍法会議でした。

なお、常設軍法会議は、二審制で、かつ、公開裁判が原則であり、弁護人も付きました。これに対し、特設軍法会議は一審制、非公開、弁護人無しとなっています。
(陸軍と同様。)

軍法会議の構成

陸軍の軍法会議は、裁判部、検察部がありましたが、海軍の軍法会議にはありません。
裁判に際しては、軍法会議長官が、あらかじめ定められた検察官・予審官・裁判官要員の中から、当該裁判の検察官・予審官・裁判官を選定しました。

軍法会議の職員

軍法会議の職員は、陸軍と同様に判士、法務官、録事、警査がいました。

判士、法務官については陸軍といくつかの相違があります。

まずは判士。以下、以前の記事より陸軍の判士について引用。

判士は、兵科将校から任命されます。 判士は軍法会議の裁判官となりうるものであり、法務官を除いて、原則、判士でなければ裁判官となることはできません。 なお、裁判官となる将校は、常に被告人と同等以上の階級の者と定められていました。

【日本軍】軍法会議を(ちょっとだけ)知ろう【軍事司法】 - Man On a Mission

陸軍の判士は兵科将校から選ばれますが、海軍の場合は、兵科以外に機関科の将校も判士となることができます。
(なお、海軍の各科についてはこちらを参照ください。)

次は法務官。以下、以前の記事より陸軍の法務官について引用。

法務官は、裁判官、予審官、検察官に任ぜられます。 特設軍法会議においては、法務官に替えて兵科将校または他の高等文官に検察官、予審官を務めさせることができました。 なお、検察官は憲兵や警察官に捜査を補助させることも可能です。

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上記の通り、特設軍法会議においては、法務官に替えて将校または他の高等文官に検察官、予審官を務めさせることができるのですが、海軍の場合、常設軍法会議である要港部軍法会議でもこれが適用されました。

録事、警査については陸軍と同様です。以下、以前の記事より引用。

録事は、書類の調製等の事務を管掌し、取調べや処分への立会を行います。 判任文官でしたが、特設軍法会議では、准士官下士官を録事を務めさせることができました。 警査は、捜査・警備の補助や送達を任務とします。判任待遇の文官でした。

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全員素人裁判官

裁判官についても概ね陸軍同様なのですが、重大な違いもあったりします。
まずは、以前の記事より引用。

裁判官は原則5名となります。 前述のとおり、判士、法務官から任命されますが、高等軍法会議では判士3名、法務官2名、その他の軍法会議では判士4名、法務官1名でした。 なお、特設軍法会議では、裁判長を除く裁判官を2名減らして、判士2名、法務官1名とすることができます。 裁判官の過半数の意見で判決が決せられました。なお、裁判官の選定は、軍法会議長官の権限となります。 また、合囲地軍法会議では、法務官に替えて、兵科将校または合囲地境内の高等文官に、裁判官の職務を行わせることができるとされていました。制度的には、法律専門家不在もあり得たわけですね。

【日本軍】軍法会議を(ちょっとだけ)知ろう【軍事司法】 - Man On a Mission

上記については、海軍でも同じです。
しかし、海軍では、要港部軍法会議、艦隊軍法会議、臨時軍法会議においても、法務官に替えて将校または将校相当官に裁判官の職務を行なわせることができるとされており、これが陸軍との重大な違いでした。
(なお、将校と将校相当官についてはこちらを参照ください。)
要港部軍法会議と特設軍法会議では、検察官や予審官も将校等に務めさせることができましたので、法律専門家不在の「裁判」もありえたわけですね。

弁護人

弁護人については、陸軍と同様です。以下、以前の記事より引用(陸軍とあるところは海軍と読み替えて下さい)。

特設軍法会議では弁護なしですが、常設軍法会議では、弁護人を選任することができました。 1年以上の懲役または禁錮以上の刑罰にあたる事件については、弁護人の選任・出廷がなければ開廷できないとされています。 弁護人となりうる者は、将校または将校相当官、陸軍高等文官、陸軍大臣の指定した弁護士でした。

【日本軍】軍法会議を(ちょっとだけ)知ろう【軍事司法】 - Man On a Mission

最後に

さて、海軍の軍法会議を見てきました。
陸軍と比べると進歩的で自由なイメージを持たれがちな海軍ですが、法務官関係では、陸軍より酷い点が目に付きましたね。
まあ、海軍の特性上致し方ない面もあったのかもしれませんが、裁かれる側からするとたまったものじゃありません。

ちなみに、前回紹介した書籍「戦場の軍法会議: 日本兵はなぜ処刑されたのか」も、中心となるのは海軍軍法会議です。

戦場の軍法会議: 日本兵はなぜ処刑されたのか

日本海軍のモットーとして「スマートで、目先がきいて几帳面、負けじ魂、これぞ船乗り」なんて言葉があったそうですが、海軍の軍法会議を見てると、モットーを満たす難しさを感じたりシますね。
なお、どうでもいいですがこの「スマート」というのは洗練されてるとかシャレてるとかいう意味ではなく、敏捷さ、機敏さを指してるそうです。そう考えると、軍法会議でも「スマート」だけは満たしてるケースが多いのかな?(嬉しさゼロ)

 

 

*1:個人の感想です。