【英国】現代の軍法会議制度 イギリス編【軍事裁判所】
最近、軍法会議の話が続いてるのですが、前回はアメリカの軍法会議(軍事裁判所)の制度についてめんどくさいけど取り上げました。
今回もしつこく軍法会議(軍事裁判所)について。現代の軍法会議制度、今回はイギリス編です。
なお、他の軍法会議の記事は以下の通り。
【日本軍】軍法会議を(ちょっとだけ)知ろう【軍事司法】 - Man On a Mission
【日本軍】軍法会議をもうちょっと知ろう【軍事司法】 - Man On a Mission
【日本海軍】海軍の軍法会議【陸軍との違い】 - Man On a Mission
私の趣味範囲の関係上、日本軍の軍法会議を中心に取り上げてたのですが、前回より、一応、現代の軍法会議についても取り上げようという趣旨になっております。
ただし、めんどくさいので概要程度にとどめ詳細には触れてませんので、その旨、ご承知おきください。
イギリスの軍法会議(軍事裁判所)
イギリスの軍事司法については、2006年軍隊法(Armed Forces Act 2006)に定められています。
軍隊法にはやや変わった慣習があり、1996年軍隊法、2001年軍隊法といった具合に5年毎に制定されます。現在は2006年軍隊法で計算が合いませんが、これは、枢密院令により5年間を限度に継続できるとされているためです。
今は2019年なので、上記でも計算が合ってないわけですが、実は、2016年に2021年まで継続できると規定されました。めんどくせえ。
そんなわけで、2006年軍隊法は5年ごとに継続となり、併せて改正もされながら現在に至ってます。
同法には、審理対象となる犯罪と刑罰、裁判所等の管轄権、審理手続などについての規定があり、また、その詳細は軍務法便覧(Manual of service law: JSP 830)に記載されています。
軍事裁判所の対象
軍が設置する裁判所の審理対象となるのは、(当然ながら)主に軍人となります。
「主に」と言った通り、軍人以外にも対象となる者がおり、軍の航空機や艦船の乗組員、軍管理下にある者、指定地域内で軍を支援する業務についた政府の公務員等の一部文民が挙げられます。ただし、これらの者は全面的に対象となるわけではなく、2006年軍隊法に規定される犯罪の一部(略奪等)についてのみ管轄権が及びます。
軍が設置する裁判所の審理対象となる犯罪には、利敵行為や職務放棄、適法な命令に対する不服従等があります。また、一般刑法で規定される犯罪行為も対象となる旨定められています。
軍事裁判所の種類と制度
軍が設置する裁判所等としては、軍事裁判所、略式審問、軍務文民裁判所の3種類があります。
軍事裁判所
軍事裁判所は、先述した審理対象となる者、犯罪の全てを審理することができ、また、英国内外を問わずいかなる場所にも設置し得るとされています。
後述する略式審問、軍務文民裁判所では、刑罰の上限が定められていますが、軍事裁判所では無期懲役、不名誉免職等の重い刑罰を科すことが可能です。
主として重大な案件が審理されます。
軍事裁判所は、通常1名の法務官、3名から5名の陪審員で構成されます。
米軍と異なり法務官は文民で、大法官によって指名されます。
陪審員については、被告が軍人の場合には同じ軍種の軍人がつきます。例えば、被告が陸軍軍人のときは陸軍の、空軍のときは空軍の軍人が陪審員になるということですね。被告が文民の場合には文民が陪審員となります。
略式審問
略式審問は、先述した審理対象となる者の犯罪について、部隊の司令官が審理する手続です。
利敵行為、職務放棄、反逆といった重大な犯罪を、略式審問で取り扱うことはできません。
ちなみに、一般刑法上の犯罪も審理できますが、こちらも謀殺や重度性犯罪といった重大な犯罪は除きます。
略式審問で科すことのできる刑罰には上限が設けられており、例えば罰金だと給料総額28日分、拘留だと28日間(権限の拡大を認められた司令官の場合90日まで)とされています。
なお、被告には、略式審問ではなく、軍事裁判所での審理を選択する権利があります。
略式審問の構成は、被告が所属する部隊の司令官1名です。
軍務文民裁判所
軍務文民裁判所は、先述した審理対象となる者が、英国本土および英国王室属領外で行なった一般刑法上の犯罪等について、審理できます。
(ただし、重大な犯罪は取り扱えません。)
略式審問と同様、刑罰には上限が設けられており、一つの犯罪に対して12カ月を超える禁錮を科すことはできません。
軍務文民裁判所の構成は、法務官1名です。
上訴と再審査
軍事裁判所の判決については、一般刑法上の犯罪に関する判決で、不当に寛容な内容であると法務総裁がみなした場合等に、再審査を行うことができます。
軍が「身内」に甘い場合とかですね。再審査は軍事裁判上訴裁判所に付託されます。
被告が、軍事裁判所の判決に不服がある場合は、軍事裁判上訴裁判所に上訴できます。
軍事裁判上訴裁判所の判決にも不服があった場合は、最高裁判所に上訴できます。
略式審問の場合は、被告が、その決定に不服がある場合、略式上訴裁判所に上訴できます。
略式上訴裁判所の判決にも不服がある場合、高等法院に上訴できます。
軍務文民裁判所の場合、被告が、その判決に不服がある場合、軍事裁判所に上訴できます。
なお、軍事裁判上訴裁判所は、2名から3名の裁判官で構成されます。この裁判官は文民であり、一般の裁判所である控訴院等の裁判官等が就きます。
略式上訴裁判所については、1名の法務官と2名の士官又は准士官で構成されます。
最後に
さて、今回はイギリスの軍法会議(軍事裁判所)について取り上げました。アメリカと似ているところが多いのですが、軍事裁判所、軍務文民裁判所の裁判官に文民(法務官)が含まれる点は大きな違いですね。
イギリスの軍事司法制度は、第二次大戦後、大きな改革はされてなかったのですが、1990年代後半から、軍事裁判制度の独立性、公平性を確保するべく改革が重ねられました。
これら改革には、軍事裁判所で裁かれた者の、欧州人権裁判所への提訴が影響を与えています。
例えば、以前の記事でも触れた通り1996年軍隊法には、フィンドレイ事件の影響が見られます。
フィンドレイ事件の内容について、今回記事では触れませんが、いつかそのうち取り上げるかもしれません。
どんな事件か一応知りたいけど自分で調べるのはめんどくさい…という方がもし居られましたら、頃合いを見て当ブログまでご来訪ください。そして、その時も書かれてなかったら諦めて下さいごめんなさい。