最近、軍法会議についての記事が続いていたのですが、前回は12月8日ということで軍法会議の話は中断して、太平洋戦争開戦にまつわる記事を書きました。
太平洋戦争では真珠湾攻撃よりも前にマレー半島への上陸作戦が行なわれたのですが、この際、英領マレーだけでなく、当時中立を宣言していたタイ領への進入・上陸も行なわれています。
タイは日本の圧力に抗し切れず、日本と同盟を結んで英米に宣戦布告するハメとなったわけですが、器用な立ち回りにより、短期間で「敗戦国」としての立場から脱却しました。
それはさておき。
本日記事は、中断していた軍法会議の話の再開です。
日本軍の軍法会議から始まり、現代のアメリカ、イギリス、フランスと続いてきましたが、今回は現代ドイツにおける軍法会議(軍事裁判所)について。
ドイツの軍法会議(軍事裁判所)
さて、ドイツ連邦共和国における軍事裁判所についてですね。
えー、ドイツ憲法(ドイツ連邦共和国基本法)では、軍人の刑事犯罪を審理するための軍刑事裁判所を設置できるとされてるのですが、設置根拠となる連邦法律は今まで制定されていません。
すなわち、現在のドイツには軍事裁判所はありません。以上。
ドイツの軍刑法と裁判
上記で終わるのもあんまりなので、以降は、軍事裁判所の話の代わりに軍刑法と一般の刑事裁判所について書きます。一般の刑事裁判所について取り上げるのは、軍人の刑事犯罪についても一般の裁判所で審理されるからです。
なお、概要程度で、あまり詳しく書いたりはしませんので、その旨ご承知おきください。
軍刑法
ドイツでは、軍務に係る犯罪が軍刑法に定められています。しかしながら、前述の通り軍事裁判所はありませんので、一般の裁判所により審理されます。
軍刑法は、主に現役の軍人が服することとなりますが、文民も全く対象とならないわけではありません。文民に軍刑法が適用される例としては、軍の上官として行動する場合や、軍務に係る犯罪に加わった場合が挙げられます。なお、軍刑法に定める犯罪を審理する際の手続きについては、軍刑法上の特別規定を除き、刑事訴訟法等が適用となります。
軍刑法における犯罪は、無断欠勤や職務放棄、命令への不服従といったものが定められており、これは国内・国外関係なく適用されます。
(一応、補足。軍刑法に定められていなくても、一般刑法に定められた犯罪を犯せば、当然、処罰の対象となります。また、国外への派遣中または国外への派遣に関連して行われた犯罪についても一般刑法が適用されます。)
裁判
ドイツにおいて、刑事事件を取り扱う裁判所には、区裁判所、地方裁判所、高等裁判所があります。
地方裁判所は区裁判所の控訴審でもあり、また、高等裁判所は、地方裁判所が控訴審として下した刑事事件判決に対しての上告審となります。
地方裁判所、高等裁判所の上訴審には、連邦通常裁判所があり、高等裁判所が第一審として判決した事件、および、地方裁判所が第一審とした判決で高等裁判所が管轄しない事件について上訴管轄権を有します。
以下、区裁判所、地方裁判所、高等裁判所それぞれについて述べていきます。
区裁判所
区裁判所では、以下を除く刑事事件を管轄としています。
- 裁判所構成法が特別に地方裁判所または高等裁判所の管轄と規定している犯罪
- 4年を超える自由刑が予想される事件
- 裁判所構成法で地方裁判所または高等裁判所が第一審管轄権を有すると定められている事件
- いわゆる保安処分*1を伴わない事件
刑事事件は、原則として、職業裁判官1名と参審員2名で審理を行います*2。
ただし、軽罪(法定刑の最下限が1年の自由刑を下回る罪)で、かつ、私人起訴および検察官が刑事単独裁判官に起訴し2年を超える自由刑が期待されない事件は、刑事裁判官が単独で審理します。…なんかややこしいですね。ともかく軽微な事件は刑事裁判官が一人で審理、と思っときゃよいです。
地方裁判所
地方裁判所の管轄する刑事事件は以下となります。
地方裁判所が第一審となる刑事事件では、3名の裁判官及び2名の参審員で構成される大刑事部で審理されます。ただし、一部の重罪事件を除いて裁量的に職業裁判官を2名とすることも認められます。
控訴審の刑事事件は、職業裁判官(裁判長)と参審員2名で構成される小刑事部で審理されます。
高等裁判所
高等裁判所は、主として地方裁判所が控訴審として下した判決に対する上告事件を扱います。
(区裁判所が第一審として下した判決に対する跳躍上告も扱います。)
また、平和に対する罪、反逆罪等の重大刑事事件については、高等裁判所の管轄となり、この場合第一審となります。
高等裁判所が第一審として重大刑事事件を審理する場合には、5名の職業裁判官により審理されます。
上告事件の場合は、3名の職業裁判官が審理します。
最後に
さて、現代ドイツの軍法会議……は無かったので、軍刑法と一般の刑事裁判所についての記事となってしまいました。
一応、申し訳程度にドイツ憲法に規定された軍刑事裁判所の話を少し。
前述した通り、連邦法律は制定されていなくても、憲法上では軍刑事裁判所を設置し得るとされてるわけですが、これは何の制限もなく自由に設置できるというわけではありません。
軍刑事裁判所は、防衛上の緊急事態においてと、外国に派遣されまたは軍艦に乗船させられている軍隊の所属者に関してのみ、その刑事裁判権を行使することができるとされています。常設が前提とされてはいないのですね。
なお、軍刑事裁判所は、連邦法務大臣の職務領域に属するとされ、これに置かれる専任裁判官は、裁判官職に就く資格を有していなければならないものとされています。
……と、まあ、こんな所で勘弁して下さい。
以下、余計な余談。
過去に青山なんたらさんが「日本を除くすべての先進国の軍隊には、当然ながら軍法会議があります」とかほざいて述べられてたと思うのですが、おや?先進国であるドイツにはなぜか軍法会議がありませんね。以前取り上げたフランスの軍法会議も、過去の極わずかな設置に留まっています。
まさか、ドイツやフランスは先進国じゃないとか言いたいわけでは無いと思うのですが、ひょっとしたら、青なんたらさんは、この世界と異なる歴史を持つ平行世界に暮らしておられるのかもしれませんね。