Man On a Mission

システム運用屋が、日々のあれこれや情報処理技術者試験の攻略を記録していくITブログ…というのも昔の話。今や歴史メインでたまに軍事。別に詳しくないので過大な期待は禁物。

【太平洋戦争/大東亜戦争】せっかくだから俺はこの〇〇〇を選ぶぜ【呼称】

本日は12月8日、太平洋戦争開戦の日です。
79年前の今日、英領マレー半島への上陸および真珠湾攻撃をもって太平洋戦争が勃発しました。

当ブログでは、12月8日にできるだけ太平洋戦争開戦にちなんだ話を挙げるようにしています。
とはいっても、まだ一昨年、去年の2回しか挙げてないのですが。

oplern.hatenablog.com

oplern.hatenablog.com

今年も太平洋戦争開戦にちなんだ話を、と思ったのですが、残念ながらあまり時間がとれませんでした。
なので本日は小ネタ。太平洋戦争「開戦」にちなむといってよいのか微妙感はありますが、太平洋戦争の呼称について少々。
時間もないことだし、あまり込み入った話はしませんのでその旨ご承知おきください。

なお、記事タイトルは例のゲームのオマージュです。なんだこのドカ貧は懐かしいですね。ちなみにゲームの発売は1996年なのですが、なんと2018年にサントラが出ています。
こちらにその経緯がありました。)

このドカ貧戦争を何と呼ぶ

今でこそ「太平洋戦争」という呼称が一般的になってますが、戦時中の正式な日本側呼称は「大東亜戦争」でした。
個人的には、保守だか右派だかな方々の「活躍」のおかげで、現代においても「大東亜戦争」とか呼んでる人にはネガティブな印象が拭えなかったりするのですが、それはさておき、太平洋戦争という言葉が一般的になるのは敗戦後のことです。

ただし、戦時中呼称が「大東亜戦争」だったといっても、開戦当初からこの名前が定められていたわけではなく、若干後になる12月12日に決定されています。

次節より、「太平洋戦争」と「大東亜戦争」という二つの呼称が世に出てくる経緯を。

大東亜戦争

大東亜戦争」という仰々しい呼称は、太平洋戦争開戦後の1941年12月10日、大本営政府連絡会議にて「今次戦争ノ呼称並ニ平戦時ノ分界時期ニ関スル件」として決定されました。
「今次ノ対米英戦争及今後情勢ノ推移ニ伴ヒ生起スルコトアルヘキ戦争ハ支那事変ヲモ含メ大東亜戦争ト呼称ス」だそうです。
日中戦争(当時呼称は「支那事変」)も含めるものとしていたわけですね*1

上記呼称は、12月12日の閣議にて正式決定となり、以降、日本側の正式呼称として用いられることとなります。
なお、「大東亜戦争」と定められる前は、「対米英蘭蒋戦争」、「対米英蘭戦争」、「対英米蘭戦争」といった具合に呼ばれていました。

ちなみに、「大東亜戦争」以外の候補として海軍側から「太平洋戦争」という案も出たそうですが、陸軍に押し切られてしまったようです。
一応、中国戦線を含めることも考慮してこの名称に決定したとのこと。

それにしても、当時の日本はいちいち仰々しいというか「大」をつけずにはいられない感がありますね。まあ、「大東亜」という言葉自体はこの時初めて登場したわけではなくて、第二次近衛内閣の「基本国策要綱」で出てくるわけですが。

太平洋戦争

さて、「大東亜戦争」はもの凄く負けちゃったわけですが、敗戦後もしばらくは「大東亜戦争」という呼称のままでした。
これが「太平洋戦争」に切り替わるのは、連合国軍最高司令官総司令部GHQ)の指示に端を発します。

GHQは、1945年9月10日「ニューズ頒布についての覚書」、同年9月19日に「プレス・コード(新聞規約)」を発していますが、これらに基づき、「プレス・コードにもとづく検閲の要領にかんする細則」が新聞社や出版社に通達されました。
細則では、「大東亜戦争」「大東亜共栄圏」「八紘一宇」といった言葉の使用を避けることとされており、また、発行される出版物はGHQ民間検閲局の事前/事後検閲を受けると規定されています。

「太平洋戦争」という呼称は、1945年12月7日の朝日新聞社説で用いられたことを皮切りに、翌12月8日から17日にかけてGHQ提供による「太平洋戦争史」が新聞各紙に連載されるなどして、一般化していくことになりました。

なお、1945年12月15日にはGHQから、神道の国家からの分離、神道系施設や団体に対する国からの資金的・人材的サポートの停止を命じる「神道指令」と呼ばれる覚書が日本政府に発され、これには公文書で「大東亜戦争」を用いることを禁ずるとの指示が含まれていました。
この覚書にしたがい、官制条文中の「大東亜戦争」の語句は、「戦争」と改められています。

十五年戦争アジア・太平洋戦争

さて上記経緯により、戦後は「太平洋戦争」が定着したのですが、この呼称だと、日米間の戦争が偏重されすぎててアジア大陸での戦争が含まれてないように聞こえる、という批判がなされるようになります。

満州事変から太平洋戦争までを全部ひっくるめて「十五年戦争」と呼称する人*2も出てきたのですが、今度は、満州事変、日中戦争、太平洋戦争の連続性の程度からすると不適切じゃないか、といった意見が出されました。
また、実用上の観点からすると対象範囲が広くなりすぎて使いづらくなるようで、日米開戦以降の時期を取り扱いたいのに「十五年戦争」という呼称を使ってしまうと、満州事変・日中戦争も入ってしまうから「太平洋戦争」で通した、なんてケースもあったようです。

上記により、「十五年戦争」という呼称は今いち主流には至らなかったのですが、その問題点を補足するような呼称として「アジア・太平洋戦争」が出てきました。こちらは副島昭一氏や柳澤英二郎氏らが使い始めた呼称のようです。
最近はこの「アジア・太平洋戦争」という呼称を採用する例が増えつつあります。

とはいえ、現状、その定義がやや混乱した状況になっていて、「十五年戦争」を前提としてその第3段階に当たるものとしたり、満州事変も含めたりと、使用者によって異なるケースが見られます。
このため、使用例が増えていながらも決定的なものではありません。
ちなみに、「アジア・太平洋戦争―シリーズ日本近現代史〈6〉」の著者である吉田裕氏も、「アジア・太平洋戦争」という呼称を用いたことについて、他に「太平洋戦争」「大東亜戦争」にかわる適切な呼称がないから、なんてことを述べられてます。

大東亜戦争」狂騒曲

さて、「太平洋戦争」という言葉の定着には、GHQの指示が大きな役割を果たしたわけですが、そういう展開になると、例によって例のごとく「右派」だか「保守」だかな方々がケチをつけ始めます*3
1963年には、作家の林房雄氏が「大東亜戦争肯定論」なんてのを「中央公論」に連載、今でもよく見られる「日本のアジア解放」的な妄言を飛ばしたりしてました。

大東亜戦争」という呼称を用いる人が必ずしもこの手の人ってわけではなく、「大東亜戦争肯定論」なんかを否定しながらもあえてこの呼称を用いる方もいます。
とはいえ実情としては、「大東亜戦争」という呼称を用いる方の多くが、大日本帝国を無理筋で擁護する傾向*4にあり、イデオロギーからの脱却*5というか無味無臭感を出すのは困難なんじゃないでしょうか(個人の感想です)。
この状況を踏まえると、もはや「大東亜戦争」という呼称は望ましくないんじゃないかと思えます(個人の感想です)。

あ、けど「大東亜戦争」という呼称を好んで用いる方に対しては警戒レベルを高くするというような、便利な使い方もありますので、「右派」だか「保守」だかな方々には、今後とも「大東亜戦争」という呼称を使っていただいたほうがよいのかもしれませんね(個人の感想です)。

最後に

さて、太平洋戦争開戦にちなんでいるかどうかは微妙ながら、戦争呼称についてざっと取り上げてみました。
呼称一つとっても色々難しいというかややこしいですね。

なお、当ブログでは、一貫して「太平洋戦争」という呼称で通しています。
確かにアジア大陸で行われた戦争を考えると適切とは言えないのかもしれませんが、まあ、これで慣れちゃってて他の呼称がピンとこないので。趣味ブログだし。

ついでの余談ですが、1865年-1866年のチリ・ペルーとスペイン間の戦争、それから1879年-1884年のチリとペルー・ボリビア間の戦争も「太平洋戦争」と呼ばれたりしますので、私の知る限りでも「太平洋戦争」という戦争は三つあることになります。めんどくせえ。

 

 

*1:とはいえ、この「支那事変ヲモ含メ」という言葉が、日中戦争開始の1937年までさかのぼって含めるのかという点については混乱が見られます。内閣情報局の発表では含まれてるとしているけど、1945年11月の帝国議会貴族院では松本国務大臣が「区別して考える」と答弁してたり。

*2:秦郁彦氏によると、「十五年戦争」という言葉を作ったのは鶴見俊輔氏だそうです。

*3:この手の行動パターンの割に、これらの方々の多くが盲目的に対米従属路線を支持しているのは不思議ですね。まあ、毎度のことですが。

*4:一見、中立的に見えてもそこはかとなく擁護してたり、部分部分で奇妙な理屈を持ち出してきたり、といったケースもあります。旧軍関係者なんかに割とみられるパターンですが、時には旧軍趣味が高じて同様の行動パターンを取っちゃう方もおられますので、なんというか、まあ、人間ってのはめんどくさいですね。さらに余計なことを言うと、軍事趣味者な方にも類似の行動パターンがよく見られます。

*5:これ、本当は「イデオロギー」なんて呼べたもんじゃなくて、単に被害妄想と承認欲求をこじらせた人が、(無理目の)日本擁護を娯楽化して暗い快楽を得ているだけだと思います。