Man On a Mission

システム運用屋が、日々のあれこれや情報処理技術者試験の攻略を記録していくITブログ…というのも昔の話。今や歴史メインでたまに軍事。別に詳しくないので過大な期待は禁物。

【アメリカ編】軍事趣味者は基地公害の夢を見るか?【軍事環境問題】

年が変わり2021年になりました。
なったのですが、だからどうだということもなく、正月ごときは何事もなかったようにスルーしていつもの通り辛気臭い話を。

今回は米軍の活動や基地がもたらす公害/環境被害について。
結構大きなテーマですので、当ブログで網羅的な取り上げ方はしないし出来ません。興味がある方は、記事末尾の書籍をお読みいただくなり、軍事環境問題についての文献や論文を探すなりしてみてください。

今回はアメリカにおける軍事環境問題を、次回は日本における在日米軍の基地公害問題を取り上げる予定です。もしかしたら2回で収まらないかも。

米軍の軍事環境問題

日本では、1960年代に産業公害が大きな問題となりました。

イタイイタイ病や土呂久ヒ素中毒など、鉱山からの排出物による被害は1900年代前半から発生していたと思われますが、1950年代半ばの高度経済成長期には、化学工場などから有害な化学物質を含む排出物が大量に環境中に放出される事例が多発しています。

産業公害による人への被害が明らかになっても、しばらくは経済重視とする考え方が蔓延り、人の命や健康は優先されませんでした。
人よりも経済優先という考え方が、ある程度国民の間で許容されてしまう背景には、「多数の幸福のためなら少数の犠牲は仕方ない」というクソみたいな思想があったりしたわけですが、残念ながら今の日本でもよく見られたりしますねクソが。
さておきこのことは、1970年代はじめまで続く日本各地での激甚な公害の発生につながることとなります。

そんなクソ日本でも公害反対運動の成果もあって、次第に公害軽減のため種々の環境政策が行われるようになっていきました。
ところが、本日の主題である軍事活動により引き起こされた環境汚染については、その被害が深刻なものであったにも関わらず、ほとんど対応がなされていません。

日本では70年以上にわたり、米軍基地が放射性廃棄物枯葉剤劣化ウランヒ素などの有害物質で環境を汚染してきました。

この米軍基地による環境汚染は日本に限ったものではなく、海外およそ70か国にある800もの駐留基地でも環境汚染を引き起こしています。
また、米軍は世界各地における軍事活動でも、有害物質をまき散らしているといえるでしょう。

米国本土も米軍による環境汚染の例外ではありません。
米国政府の記録によるとこの数十年間で軍は米国内3万9400か所を汚染、国防総省とその契約者による米国における汚染の総面積は、16万1874k㎡に達するそうです。

米国本土における汚染事例

いくつか米国本土における汚染事例を挙げておきます。

まずは、ノースカロライナ州のキャンプレジューン。
この基地では、1950年代から1980年代にかけて、燃料と溶剤を基地内井戸に放出し、安全基準の数千倍というレベルで飲料水を汚染しました。また、地下保管タンクからはベンゼン、洗濯所付近ではドライクリーニング薬液を垂れ流しています。
当該基地の海兵隊は汚染に気づいていたにも関わらず、隊員や家族が水を飲み続けるのをそのままにし、政府が調査を開始した際には軍官僚が嘘でごまかしたりも。

カリフォルニア州エドワーズ空軍基地では、発がん性の溶剤や脱脂剤が航空機エンジンの洗浄に使用されて地面に流れ込みました。
また、火災訓練でパーフルオロ化合物を含有する泡消火剤が水源を汚染した他、保管タンクからの燃料漏出も起きています。
エドワーズ空軍基地には、重大汚染地点と疑われる場所が470か所存在するとか。

同じくカリフォルニア州には、過去にノートン空軍基地がありました。
サン・バーナーディーノに存在した同基地は1988年に閉鎖が決定、1994年には完全閉鎖されます。
同基地は空港として再整備され、サン・バーナディーノ国際空港および物流施設ととなりました。
土地開発は2000年から2007年にかけて行われていますが、基地による土壌汚染が原因で開発が遅れたそうです。
土壌汚染を取り除くのに費やした期間は1995年~2005年の約10年間でした。
現在、土壌自体の汚染は改善されているものの、それ以外に、地下水も汚染されておりこの対策には50年以上掛かるとのことです。ただし地下水汚染については、地上での開発に影響はないとして、土地利用は行っているとのこと。

ちなみに、米国本土以外の汚染事例だと、ハワイのパールハーバー統合施設での燃料タンクやドライクリーナー、PCBによる汚染が、グアムのアンダーセン空軍基地での燃料、PCB、殺虫剤、重金属汚染があります。

アメリカ軍は隠したい

さて、米国では今でこそ、米軍による環境汚染がある程度明らかにされていますが、以前は軍事機密を盾に情報が秘匿されがちでした。
大きな公害事件が起きても、米軍はなんとか隠そうとしています。例として、ダグウェイ羊事件を。

1968年、米陸軍施設であるユタ州のダグウェイ検査場にてVXガスの空中散布試験が行われました。しかし散布されたVXガスは想定外に広がってしまい(強風や散布機の故障が原因といわれてます)この影響により、周辺地域の牧場で羊の大量死が発生します。
事件後の調査では、6000頭以上の羊が死んだと報告されました。

この件について、軍は責任を否定し隠蔽を試みます。羊の大量死は神経ガス事件とは無関係などと主張したのですが、結局は家畜を殺された農家に賠償金を支払うことになりました。

米軍が環境汚染を隠蔽しようとするのは、特段珍しいことではありません。
ベトナムでの枯葉剤被害についても、共産主義者プロパガンダとかいったりしてましたね。

米国では、次第に軍に対する環境保護の要求が高まっていきますが、これに対して米軍は反発、クソみたいな手法で抵抗します。
「軍の存在は環境保護ではなく国民保護のためにある」とか言って不十分な環境保護対応をごまかそうとしたり、環境諸法に違反しても軍は連邦機関なので訴追されないと主張したり、安全保障を盾に環境汚染の情報を秘匿したり。
ちなみに、軍に対して透明性を求める人々への中傷を行ったりもしています。お偉いさんが、環境団体を名指しして「少数の地元のデマゴーグ」が軍の作戦を損なうとか、環境諸法が「反軍派」に武器を与えているとかヌかしたこともありました。

米国の現在

さて、冷戦下においては、米軍基地による環境汚染の状況はタブーとして隠蔽されることが多かったのですが、冷戦終結に前後して始まった米国内での基地再編・閉鎖(BRAC)により、基地汚染問題が顕在化することとなりました。
1990年以降には、基地汚染に関する米会計検査院の報告書が毎年提出されるようになります。

現在、米国内における軍事環境問題への対応状況は、以前に比べればマシになりました。
大きな要因は透明性の確保で、例えば米環境保護庁(EPA)は使用中・閉鎖後の軍用地の汚染について幅広いデータを保持しており、誰でもこの情報にオンラインでアクセス可能となっています。
情報公開性が高ければ、国民は汚染除去の要請を行うことができるようになります。
どっかの国みたく、普通に考えたら米軍がやらかしたとしか思えない環境汚染を、米軍との関係が特定できない、なんて理由で逃げられちゃうことが少なくなるわけですね。

最後に

米国内では、比較的マシになった軍事環境問題への対応状況ですが、米軍の汚染除去に関する政策は,国内基地の場合と国外基地の場合では大きく異なっています。
残念ながら、日本においては全く改善されていません。

2015年には、基地を抱えている日本全国の自治体からの要望を受けて環境補足協定が結ばれましたが、むしろ状況は悪化しているようです。
ちなみに、実際に「環境補足協定(PDF)」 と、「環境に関する日米合同委員会合意(仮約:PDF)」を読んでみると、改善されるわけがないなと納得させられる内容でした。
(前首相のアレなんかは、「日米地位協定の締結から、半世紀を経て初めての成果」なんて自画自賛してましたが*1。)

冒頭でも言いましたが、次回はそんな日本における米軍基地公害について取り上げる予定です。

ところで、米軍による環境汚染問題については、その重大性の割に軍事ジャーナリスト/評論家/ライターも取り上げる方は少なく、それどころか、一部にはまるで米軍所属なのかと見紛うような視点で問題を矮小化しようとする方も見られます。
まあ、その内容を見ると米軍の見解に酷似していることが多いので、米軍の思考様式に同化しちゃってるのかもしれませんね。

などと最後に余計なことを吐き捨てつつ、今日のところはこの辺で。

主な参考資料

本記事を書くにあたり、以下の書籍を主な参考資料にさせて頂きました。

追跡 日米地位協定と基地公害

 

 

*1:まあ、やってるフリと自画自賛は彼の習性みたいなもんですしね。国民は、長期にわたって彼を首相に据えたことについて、もっと恥じたほうがよいんじゃないでしょうか…。