Man On a Mission

システム運用屋が、日々のあれこれや情報処理技術者試験の攻略を記録していくITブログ…というのも昔の話。今や歴史メインでたまに軍事。別に詳しくないので過大な期待は禁物。

【戦争と兵器】現代の巡航ミサイル【トマホーク】

前回、元祖「巡航ミサイル」V-1飛行爆弾ことフィーゼラーFi103について書きました。

oplern.hatenablog.com

そのついでと言ってはなんですが、今回はごく簡単ながら現代の巡航ミサイルについて触れたいと思います。

ミサイルの定義

最初に基礎知識というか、割と余計な余談。

何気なく使われる「ミサイル」という言葉ですが、では「ミサイルとは何か」と言われて答えられる人は案外少ないと思います。

ミサイルという言葉はラテン語の「mittere」から来ており、その意味は「投げる」とか「送る」です。ちなみにラテン語には男性形/女性形/中性形があり*1、形容詞「投げられうる」は男性形/女性形では「missilis」、中性形では「missile」です。後者はまるきり英語のミサイル(missile)と同じですね。

語源はさておき、軍事用語としてのミサイルは一般的に「無人で、誘導機能を持つ、使い捨ての飛翔する兵器」というイメージになっています。
「イメージ」というあやふやな言葉なのは、「ミサイル」という言葉に厳密な定義が無いからです。

一般的に、ミサイルは爆弾と違ってロケットエンジン*2などの動力を持つとされていますが、ミサイルの中には動力を持たず滑空することで目標に到達するタイプのもの*3もあり、さらには、無人・使い捨て・動力付きであっても、元来航空機として開発されたものはミサイルと呼ばないとか、まあ、結構あいまいなのです。

とはいえ、誘導装置の有無に関してだけは割と厳密で、誘導装置を持たないものを「ミサイル」とは呼びません。
そんなわけで、バズーカ等で発射される無誘導ロケット弾なんかは、けっして「ミサイル」とは呼ばれません。誘導装置はミサイルの根源的な要素なのです。

なんて形で締めてみましたが、ところが、最近は爆弾やロケット弾にも誘導装置が組み込まれることも多く、一層わけがわからない状態になっています。
例えば米陸軍で運用している多連装ロケットシステムMLRSやHIMARSで使用されるM30/M31ロケットにはGPS誘導や慣性誘導装置が組み込まれてますし、同多連装ロケットシステムに搭載されるATACMSは「陸軍戦術ミサイルシステム(Army Tactical Missile System)」という名前の通りミサイルだったりします。

冒頭で「ミサイルとは何か」という問に答えられる人は少ない、なんて書きましたが、むしろスラスラと断定的に答えてくる人はちょっと疑ったほうがよいのかもしれませんね。

巡航ミサイルとは

さて、ミサイルには様々な種類があります。
航空機を撃墜するための対空ミサイル、地上目標を攻撃する対地ミサイル、艦艇攻撃用の対艦ミサイル等々…。
これらの「普通の」ミサイルは、通常、発射地点から目標までを最短距離で飛行します。必要に応じて急上昇/急降下することもありますが、飛行経路の大部分は目標までの最短コースを取ることとなります。

これに対し、現代の巡航ミサイルはその名の通り決まったコースを「巡航」して目標に向かいます。高度や進路を変更しつつ、通常の飛行機のように複雑なコースをたどって目標に到達するわけです。爆弾を抱えて目標に突っ込む無人航空機といった方がわかりやすいかもしれません。

その構造も飛行機に類似しており、他のミサイルの動力がロケットモーターを用いることが多いのに対し、長距離の飛行が多い巡航ミサイルではたいてい燃費のよいジェットエンジンを使用します。また、飛行効率を良くするため、飛行機のような大型の翼を持ちます。
主翼から発生する揚力により巡航ミサイルでは大きな推力が必要とされず、またジェットエンジンによる燃費のよさも相まって、「普通のミサイル」と比べて長距離を飛行できるわけです。

巡航ミサイルは水平飛行により目標に向かいますが、飛行速度は他のミサイルに比べて遅く、なんの工夫もなくチンタラ飛んでいては、敵戦闘機やミサイルなどに簡単に撃墜されてしまいます。
(「なんの工夫もなくチンタラ飛ぶ」元祖巡航ミサイルFi103が、多数撃墜されたことは前回記事で触れたとおりです。)

そこで、現代の巡航ミサイルは地表すれすれの低高度を地形に沿って飛翔することで、探知されにくいように工夫しています。
言うのは簡単ですが、こうした飛翔法で目標に向かって正確に長距離飛行するためには、高度な航法システムが必要となります。巡航ミサイルは、INS(慣性航法装置)、TERCOM(地形等高線照合方式)、TERPROM(地形プロファイル照合方式)を用い、さらに起伏の大きい地表地形に対応するためGPSの位置情報での補完などを行っています。

巡航ミサイルは対地または対艦攻撃に用いられますが、通常、攻撃目標には固定されて動かないものか、動いていても低速なものが選ばれます。
なお、一般に巡航ミサイルは大型になりますが、その分、ペイロード(搭載量)も大きくなり、炸薬量の大きい弾頭(通常弾頭および核弾頭)を搭載できます。

発射プラットフォームも多様で、航空機や潜水艦などから発射できます。ちなみに、空中発射はALCM、陸上発射はGLCM、水上発射はSLCM、潜水艦発射はSLCM*4なんて呼ばれます。

トマホークと誘導装置

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なお、巡航ミサイルの代名詞ともいえる「トマホーク」は、主にINS(慣性誘導)とTERCOMを誘導に用います。
TERCOMは慣性誘導の誤差を補い命中精度を向上させるためのもので、予定飛行コースとなる地域を100メートル四方1マスの区画に区切り、その平均高度を数値に置き換えたデジタルマップとして記憶しています。
トマホークは、胴体下の電波高度計を使って地形の高低を測定し、得られたデータをデジタルマップと比較することで、定められたコースに乗っているかを判断、必要に応じてコース修正を行います。

後には、事前に記憶したデジタルマップと実際の地形が変わってTERCOMが使えなくなった場合に、DSMAC(デジタル風景照合装置)を使用する、という仕組みも追加されました。
DSMACは、光学式センサーで地形をスキャンし、事前に記憶させた情景と比較して飛行コースの修正を行うものです。
DSMACは飛行コースの基準となる建物などが破壊されると使えなくなりますので、ブロックIIIではGPSが導入され、さらにブロックIVではGPSと衛星リンクを使い飛行中の再プログラムや目標変更が可能となりました。

現在のトマホークは命中精度(CEP)10メートル以下、射程は1000km以上、タクティカルトマホークでは3000kmにも達しています。
なお、欠点は飛行速度の遅さで時速880kmといわれています。これは最短経路で常時880kmによる飛行というありえない仮定の上でも、1000km先の目標まで1時間強、3000km先の目標なら3時間半近くかかることになります。

最後に

さて、速度の遅さが欠点の巡航ミサイルですが、最近はロシア・インド共同開発のブラモスなど、マッハ2.8程度を実現*5した巡航ミサイルも登場しています。
(とはいえ、射程は300kmほどにとどまります。あと、当たり前ですがICBM等とは比ぶべくもありません。)
こうした兵器の特性によって導入目的の達成度は異なってきますし、国民の血税によって導入される兵器は「国民の財産」ですので、最近発表された空自への導入についてもちゃんと説明してほしいところです。とはいえ最近の「丁寧な説明」を聞いた感じだと望みは薄そうですね。まあ、今に始まったことでもないのですが。

 

 

*1:ドイツ語と一緒。ちなみにイタリア語、フランス語は中性形はないものの男性形/女性形があります。

*2:余談ですが、固体燃料を用いている場合、「ロケットモーター」と言われることが多いです。

*3:米AGM-154「JSOW」とか。なお、D型、E型はターボジェット・エンジンを搭載します。

*4:水上発射とはスペルが異なります。水上発射はSurface ship Launched Cruise Missile、潜水艦発射はSubmarine Launched Cruise Missileです。紛らわしい…。

*5:ロケットモーターとラムジェットの併用による。