Man On a Mission

システム運用屋が、日々のあれこれや情報処理技術者試験の攻略を記録していくITブログ…というのも昔の話。今や歴史メインでたまに軍事。別に詳しくないので過大な期待は禁物。

【戦争と兵器】軍隊のパラシュート降下【基礎知識】

昨日(2018年4月10日)、東京都羽村市川崎にある市立羽村第三中学校のテニスコートで、在日米軍のものとみられるパラシュートが見つかりました。
同中は横田基地の西約700メートルの位置にあり、パラシュートは在日米軍のC130輸送機からの降下訓練中に落下したもののようです。
防衛省によれば、横田基地に向かって降下中の米軍隊員が異常を感じたため切り離したパラシュートが、同中の敷地まで風で流され落下したものだと米軍は説明しているとのこと。
ちなみに、隊員は予備のパラシュートで降下し無事だったそうです。

mainichi.jp

けが人が出なかったのが不幸中の幸いではありますが、4月5日のオスプレイ到着後のこのタイミングでの事故ということもあって、不安を増した近隣住民の方も多いのではないでしょうか。

今回事故においては、いつもはアレなネット上の論調も(比較的)米軍や政府に批判的なものが多いようです。まあ、それはそれで沖縄での米軍絡みの事故との温度差に、なにやら引っかかりを感じるわけですが。

ちなみに、市街地上空で降下訓練されちゃうくらい「米軍とともにある日本」ですが、他国はそこまでアメリカの言いなりべったりじゃないので米軍の活動には色々と制限を加えています。
例えば、ドイツやイタリアは自国内の米軍基地の管理権を持ち、訓練を含む米軍の全ての活動はドイツ/イタリア政府に統制される「許可制」となってたりします。

日本では米軍機に航空法が適用されず、さらには空域調整においても民間より米軍が優先されますが、ドイツでは米軍はドイツ航空法とドイツ軍の規則に従って訓練を行います。米軍が飛行訓練を行うには、事前に独航空管制当局に空域の予約をする必要があり、かつ民間航空が優先です。

イタリアでは、強い規制により米軍の低空飛行訓練はほとんど行われません。イタリアの地位協定には、米軍の訓練と作戦に関する計画と実施はイタリアの法律を遵守しなければならない旨、明記されてますが、日米地位協定では「尊重」となっています。

総じて、ドイツ、イタリアの地位協定条文とその運用は、その国の領域内では国籍に関係なく、その国の法律が適用される属地主義となっています。さすが主権国家。なお、日本では在日米軍には日本の法律は適用外というのが原則です。

ちなみに、NATO加盟国では米軍の航空機事故などが発生した際には、受け入れ国の軍隊が米軍と合同で調査委員会を立ち上げ、共同で調査を行う仕組みがあります。
これに対し日本では、2016年12月の沖縄県名護市におけるオスプレイ墜落の際に名護市長の立ち入りが拒否されてますし、同県宜野湾市沖縄国際大学米軍ヘリコプター墜落(2004年8月)でも米軍により現場が封鎖され、やはり日本側は立ち入ることができませんでした。

…などと時事ネタに沿って書いてきましたが、このへんで当ブログの自縄自縛的な謎ルール「時事ネタの時は少しずらした話題にする」を適用します。
今回は、簡単ながら軍隊におけるパラシュート降下についての基礎知識を。

軍隊のパラシュート降下

一口にパラシュート降下といいますが、実のところ、軍隊で行うパラシュート降下には「スタティック・ライン降下」と「フリー・フォール降下」があります。

スタティック・ライン降下の場合

スタティック・ライン降下というのは、パラシュートを収めたケース(コンテナ)につけられたスタティック・ライン(曳索)の一方を輸送機内に張られたワイヤに固定しておき、兵士が機体から飛び出すと落下する兵士の自重によりスタティック・ラインが引き出されてパラシュートが開傘するというものです。
降下開始直後から自動的に開傘が始まるので安全性が高く、低高度でも対応できるという特徴があります。

空挺部隊が通常行う降下はスタティック・ライン降下であり、その利点は多数の兵員や装備・物資などを遠隔地へ緊急展開させられることです。

スタティック・ライン降下で用いられるパラシュートは丸型キャノピー(主傘)の傘型パラシュートで、米軍だと第二次大戦時はT-5、戦後はT-10パラシュートが使われてきました。
近年は、やや四角っぽいクロス型と呼ばれるT-11パラシュートに切り替わっています。

ちなみに、スタティック・ライン降下では輸送機の速度を時速180〜220km程度に抑える必要があります。
また落下中はまったくの無防備となるため、できるだけ降下高度を下げ(500メートル以下)、各兵士の降下間隔を短くし、さらに安全に着地できる限界速度で降下することで、攻撃を受ける可能性を低減させます。

フリー・フォール降下の場合

空挺作戦のような公然的な軍事作戦ではなく、特殊部隊による隠密性を伴う作戦では、敵に発見されることなく降下しなければなりません。
そのために行われる降下方式がフリー・フォール降下です。
これは、スタティック・ラインを用いずに飛行機から飛び降りた後、任意の高度でパラシュートを開く降下方式です。

特殊部隊が探知されることなく敵地に潜入するにはフリー・フォール降下が適しており、状況・目的に応じてHAHO(ヘイホー:高高度降下高高度開傘)、HALO(ヘイロー:高高度降下低高度開傘)といった降下技術が用いられます。

HAHOは地上から見えないような高高度(1万mくらい)からフリー・フォール降下し、さらに開傘も高高度で行います。
HAHOでは滑空降下して距離を稼ぐことが可能で、例えば敵国に潜入する場合に隊員を乗せた輸送機が国境を越えなくとも、隊員がパラシュートで滑空降下して越境できます。

HALOは、HAHO同様高高度から降下しますが、低高度で開傘します。滑空降下でHAHOほどの距離は稼げませんが、代わりにレーダーで探知されにくいというメリットがあります。

なお、これらの降下技術を可能とするため、通常、使用するパラシュートは操縦性の高いラム・エア型パラシュートとなります。ラム・エア型は長方形型のパラシュートで、スカイダイビングでも用いられています。
キャノピーが二重構造となっており、開傘すると前縁の開口部から空気が流入して内部を加圧、膨らんだキャノピー自体が揚力を発生させる仕組みとなっています。
滑空降下の性能、操縦性ともに良好でフリー・フォール降下におあつらえ向きなうえ、さらには傘型パラシュートに比べて着陸時の衝撃が小さい、という特徴もあります。
近年のスカイダイビングの隆盛には、ラム・エア型パラシュートの普及が一役買っているのだとか。

最後に

駆け足ながら、軍隊のパラシュート降下のごく基本的な知識について書いてみました。
平日ということもあって、ごく短めの記事であまり網羅性は高くありません。なので、気が向けば今後いくつかパラシュート絡みの記事を書くかもしれないです。