【大日本帝国】高等警察とは【政治警察】

前回、大日本帝国における警察について書きました。

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上記記事では、高等警察および特別高等警察に触れられませんでしたので、今回記事は前回の続きです。
大日本帝国における政治警察である高等警察について。

政治警察ってなに?

さて、大日本帝国の「高等警察」は政治警察なわけですが、では政治警察とはなんでしょうか?

前回、警察活動については、行政警察活動と司法警察活動に分けられるという話をしました。
司法警察活動が犯罪の訴追や処罰の準備のための捜査活動であるのに対し、行政警察活動は犯罪の予防(防犯)と鎮圧を中心としています。

政治警察は行政警察活動にあたり、既存の政治体制や政権の安全・安定のために、選挙や集会、大衆運動などに対する取締りを行います。また、言論・出版の検閲と取締りなどの機能も持ちます。
政治警察は17、18世紀のヨーロッパ絶対君主制国家にて始まったとされていますが、近代政治警察はフランス革命直後の総裁政府時代に、ジョゼフ・フーシェが創設した秘密警察網に端を発するといわれています。フーシェは総裁政府時代からナポレオン政権時代にかけて警察長官を務め、反政府勢力を弾圧しました。

日本の高等警察

さて、そんなわけでフランス警察では「伝統」的に政治運動・政党活動に対処する政治警察が置かれていたわけですが、これに範を取ってプロイセンでも政治警察が置かれています。
我らが大日本帝国の警察制度は、前回記事で触れた通りフランス・ドイツを模倣していましたが、そのせいもあってか、同様に政治警察を設置しました。これが高等警察です*1

高等警察の実際の組織としては、内務省警保局に高等課が置かれ、警視庁および府県警察部にも高等課を置きました。
高等警察は、政党方面の動向察知、選挙取り締まりを担当し、選挙に対する干渉も行っています。
前回記事で書いた通り、大日本帝国の警察は警保局が警察行政を掌握し、さらに警保局長の地位は時の政権に密着していたため、高等警察の権力は時の政権のために振るわれることとなりました。
政党内閣が慣例化していた頃には、盛んに野党政治家の選挙違反取り締まりを行ってたりします。

しかし、1932年(昭和7年)の5・15事件以降、政党内閣が消えたため高等警察の存在意義が薄まり、1935年(昭和10年)には内務省警保局高等課は廃止されました。警視庁・府県警察部の高等課も廃止され、情報課または警察部長書記室に引き継がれています。

民主主義国家の政治警察

「政治警察」というと、絶対君主制独裁国家にあるものだと思われがちなのですが、実際には民主主義国家でも政治警察は存在します。
実際、現代日本においても公安調査庁、警視庁の警備課・公安課、警察庁の警備局などが政治警察としての役割を担っており、日本のみならずアメリカ、フランス、ドイツといった国でも政治警察が活動しています。
一応、民主主義国家の政治警察は、国家や憲法秩序、市民を反憲法的あるいは反国家的企てから保護することが役割であり、それに関し容疑のある個人・集団・組織に対して監視・捜査を行ってその役割を果たすこととなります。しかしながら、これは(憲法で政治的結社活動・団体活動が保障されているにもかかわらず)警察当局の判断において警察活動の対象を決定するという、ひどく微妙かつ深刻な問題を内在させているともいえます。

最後に

さて、簡単ながら高等警察について述べてきましたが、この高等警察とは別に、大日本帝国様には「特別高等警察」なるものもあります。
この悪名高い「特別高等警察」がいわゆる「特高」であり、こちらは各種社会運動の取り締まりを任務としていました。
次回は、この特別高等警察について取り上げたいと思います。

主な参考資料

本記事を書くにあたり、以下の書籍を主な参考資料にさせて頂きました。

事典 昭和戦前期の日本―制度と実態

 

 

*1:ちなみに、「高等警察」という名前はドイツの法学用語をそのまま訳してきたためです。