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【軍事司法】現代の軍法会議制度 フランス編【軍事裁判所】

今回も、更にしつこく現代の軍法会議(軍事裁判所)制度についてです。今回は、自由・平等・博愛のフランス編。大陸軍は世界最強。

なお、前回までの軍法会議関連記事は以下の通り。

【日本軍】軍法会議を(ちょっとだけ)知ろう【軍事司法】 - Man On a Mission

【日本軍】軍法会議をもうちょっと知ろう【軍事司法】 - Man On a Mission

【日本海軍】海軍の軍法会議【陸軍との違い】 - Man On a Mission

【米軍】現代の軍法会議制度 アメリカ編【軍事裁判】 - Man On a Mission

【英国】現代の軍法会議制度 イギリス編【軍事裁判所】 - Man On a Mission

当初、日本軍の軍法会議について書こうと思って始めたのですが、前々回からは現代の軍法会議についてめんどくさいと思いながらも取り上げてきました。
とはいえ、めんどくさいので概要程度にとどめ詳細には触れてませんので、その旨、ご承知おきください。

今まで取り上げたアメリカ、イギリスの軍事裁判制度は結構似通ったものでしたが、フランスは、その運用において英米とは異なる状況となってます……などと微妙に引っ張りつつ、次章よりフランス軍事裁判制度の説明を。

フランスの軍法会議(軍事裁判所)

フランスの軍事裁判機関の規定は、軍事司法法典(Code de justice militaire)にて定められています。

平時と戦時で異なる裁判機関となり、平時には、一般人を対象とする裁判と同様に、刑事訴訟法典の規定に基づいて一般の裁判所で審理されます。

平時の、国内での任務における犯罪や国外での犯罪の第一審は、一般裁判所である大審裁判所に設置されている軍事専門普通法法廷(JDCS)で審理される*1のですが、この審理手続きについては、刑事訴訟法典に特別規定が定められています。
(なお、大審裁判所は、2020年1月1日に、同じく第一審の審理を行う小審裁判所と統合され、司法裁判所に改組される予定です。)
では、「国内での任務における犯罪や国外での犯罪」以外はどうかというと、フランス国内での任務外の犯罪は普通法上の裁判機関の管轄に属します。まあ、普通に裁かれるわけですね。

戦時においては、特別裁判所としてフランス共和国領土に本国軍事裁判所、軍事高等裁判所が、国外でフランス軍が駐留又は行動している地域には軍裁判所が設置されます。

なお、憲兵裁判所なんてのもあり、これは、戦時にはフランス共和国領土に、平時には国外でフランス軍が駐留又は行動している地域に設置することができます。設置については国防大臣が決定します。

当記事の主題は軍法会議(軍事裁判所)ですので、まずは、後段の戦時における裁判所について。

戦時の特別裁判所

戦時において、本国軍事裁判所および軍裁判所の管轄権に属する犯罪は、軍事司法法典の規定に従って訴追・予審・判決が行なわれます。

本国軍事裁判所は年齢満25歳以上のフランス国籍の者5名で構成されます。5名の内訳は、司法官団に属する裁判長1名と陪席裁判官1名、残り3名が軍人裁判官です。
なお、裁判長の職務は、控訴院の裁判官が務めます。
軍事高等裁判所は、フランス共和国領土全体で一つ設置されます。この裁判所は、将官、佐官などを審理します。

国外に設置される軍裁判所は、本国と同様、満25歳以上のフランス国籍の者5名で構成されますが、1名が裁判長で、残りは軍人裁判官となります。
なお、裁判長は、軍務のために動員された司法官団に属する裁判官で、防衛大臣により決定・任命されます。

憲兵裁判所は、軍事裁判機関の管轄に属する者が犯した第5級の違警罪以外の違警罪を審理します。
フランスでは、犯罪はその重さにより重罪、軽罪、違警罪といった分類があり、違警罪はさらに第1級から第5級までに区分されます。
第1級から第4級の違警罪の例を挙げると、非公然の名誉毀損、軽微な暴行、汚物等の放置、公道交通の妨害などがあります。
ちなみに、第5級の違警罪だと、軽傷害や裁判上の書類の不正取得なんかが挙げられます。
憲兵裁判所は、司法官団に属する裁判官と軍事裁判機関の書記で構成されます。

なお、軍事裁判機関が終審として下した判決は、破棄院*2への破棄申し立ての対象となります。

「戦時」とは

さて、ごく簡単ではありますが、戦時における裁判所について述べました。
しかしながら、この「戦時」というのは、戦闘状態になったら自然にそうなる、というものではありません。
フランス軍事司法法典における戦時規定の適用は、議会の承認を得た戦争の宣言を要件とされています。
さらに、フランスでは平和維持活動等は平時の任務とされており、その遂行中に軍人が犯した犯罪は、軍の特別裁判所ではなく、前述した大審裁判所のJDCSが審理することとなります。
つまるところ、軍の特別裁判所が設置されることは極めて少ないのです。アルジェリア危機の際、2度ばかし設置されましたが、まあ、ほとんどは「平時」、すなわち一般の裁判所で審理されると考えてよいでしょう。

そんなわけで、以降、平時において軍人の任務における犯罪や国外での犯罪を審理するJDCSについて、少し触れておきます。

軍事専門普通法法廷(JDCS)

JDCSの審理対象となるのは、軍事司法法典に規定する軍務に係る犯罪、刑法典等の法律に規定される一般刑法上の犯罪となります。
JDCSの管轄権は、先程も触れた通り、犯罪の行なわれた場所(国内/国外)や、任務中/任務外などで異なってきます。
軍人の、国内での任務における犯罪や国外での犯罪はJDCSの管轄となり、フランス国内での任務外の犯罪は普通法上の裁判機関の管轄となりますが、他に、犯罪に対して定められた刑罰の重さでも区分され、国内かつ任務における犯罪でも違警罪については審理しません。
しかし、国外で行なわれた犯罪の場合は、軍人、軍の職員、同行した家族、軍用機や艦船の乗組員、軍の管理下で業務に従事している者等の全ての犯罪を審理します。ややこしいですね。

なお、JDCSの審理手続きについては、刑事訴訟法典の手続によるのですが、大審裁判所検事正は起訴に先立って、国防大臣の意見を聴取しなければなりません。
他にも、国防大臣によって任命される、軍人の軍事書記官がJDCSに置かれて、裁判官を補助する等、軍の任務の特殊性を踏まえて国防大臣や軍人による一定の関与が規定されてます。

裁判官については、裁判官会議の意見に基づき、司法官団に属する文民の裁判官がJDCS担当に指名されます。

上訴についても少し。
JDCSの判決に不服がある場合、被告は、刑事訴訟法典の手続により、控訴院に控訴可能です。控訴院が終審として下した判決にも不服がある場合は、破棄院へ破棄申し立てを行うことができます。

最後に

やっと終わった……。
軽く終わらせるつもりが、戦時、平時と2つの制度を追ったせいで、長くなってしまいました。

フランスでは、特別裁判所が規定されながらも、ほとんど一般裁判所での審理かつ刑事訴訟法典による手続きとなります。一応、国防大臣や軍人の関与がある程度規定されてるわけですが、英米とは異なるスタンスと言えそうです。国によって軍事司法制度の様相が大分異なることがわかりますね。

 

 

*1:以前は、パリ軍事裁判所がフランス国外で行われた軍隊の犯罪をさばいていたのですが、2012年に解散しました。

*2:破棄院は、フランスにおける最高裁判機関です。法機構に属する裁判機関が終審として下した判決に対する破棄申し立てについての裁判を行います。