【戦争と軍隊のイヤな話】イヤばな #3【現代の戦争:イラク】

戦争や軍隊におけるイヤな話を取りあげる不定期連載(のつもり)第3弾です。
ちなみに、過去の記事はこちら。

oplern.hatenablog.com

oplern.hatenablog.com

本シリーズは、最近、戦争を「娯楽コンテンツ」的に取りあげる等あまりに軽々しく軍事・戦争を扱う方が目につくようになったため、戦争で何が起こるのかよくわかってないのじゃないかと思って始めたものです。

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戦争で何が起こるのか/何が起きていたのか知ることを主題としており、時代・地域などにはこだわらず、とにかく戦争とか軍隊におけるイヤな話を取り上げます。なお、記事の性質上、書籍などからの引用が多くなります。

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さて、本題に入る前に少し時事ネタ?を。ドイツ連邦軍が、兵員不足への対応のため、外国人の入隊を認めることを検討しているとのことです。

www.newsweekjapan.jp

ドイツは2011年に徴兵制を廃止しましたが、地域情勢の悪化を受けて徴兵制の復活についても議論されているのだとか。「地域情勢の悪化」にはやはりロシアの脅威が多分に含まれているようです。とりあえず当面の対処として、外国人受け入れによる欠員補充を考えている模様。
不謹慎ながら少し面白かったのが、最近実施された世論調査にて、ドイツに対する最大の脅威はロシアであると答えた人と、アメリカであると答えた人がほぼ同数だったという点です。
これは、トランプ大統領のもとアメリカがNATO加盟国に対して、同盟への貢献度を高めるよう要求していることが背景にありますが、かつてドイツ連邦軍アフガニスタンへ兵を派遣して50人以上の死者を出したことも、アメリカの要求に対する危機感を強くしているのかもしれません。

ちなみに、当ブログでは過去に大日本帝国の徴兵制度について記事を書いたことがあります。

oplern.hatenablog.com

上記記事でも書きましたが、2000年代中頃にはイラクアフガニスタンで米兵の犠牲者が増えており、その時期、アメリカでは経済的格差を利用した徴募(いわゆる経済的徴兵)が盛んに行なわれていました。
イラク国内の治安確保における米陸軍の兵力不足から、本来は戦闘継続期間15日程度の想定である米海兵隊が、治安維持に投入されたなんてことも。

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なお、2003年から2010年までのイラク戦争で死亡した兵士の数は、イラク治安部隊を含めた連合軍側、イラク側双方ともに2万数千人におよびます。また、負傷者については11万人です。
民間人の死者の数は正確にはわからないのですが、兵士のそれよりはるかに多く、最初の4年間だけでも15万人とか60万人とかいわれてます。

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閑話休題
前フリが長くなりましたが今回のイヤばなは、治安維持のためイラクに派遣された米陸軍兵士らが直面した、戦場の現実についてのお話。

なお、以降は延々と陰鬱な話が続きますので、ご承知おきください。
ちなみに、今までの画像は、ナポレオン~覇道進撃~10巻より。

さあ、それでは、イヤな話を始めましょう。

イラクの米軍兵士たち

今回のイヤばなは、以下の書籍より。

割と知名度の高い「帰還兵はなぜ自殺するのか」の前編とでもいうべき本です。
2007年、カンザス州フォート・ライリーを拠点にしていた米第16歩兵連隊第2大隊が、治安維持のためイラクバグダッドに派兵されることになりました。
同書は、著者(デイヴィッド・フィンケル)がこの大隊に密着取材を行って出されたものです。
戦場における兵士たちの実情がレポートされていますが、「戦争」を扱うからには、当然ながら兵士らが死傷する場面が多く登場しています。
今回は、それらの内のいくつかを取り上げます。

2007年6月8日

第2大隊がイラクで受けた攻撃は、主にロケット弾、迫撃弾、スナイパーによる銃撃、即製爆弾(IED)によるものでした。
IEDでは、自己鍛造弾(爆発成形侵徹体:EFP)型のものによる被害が目に付きます。
EFPは成形炸薬弾の一種といえるものです。炸薬の爆発で金属ライナーが発射されますが、この金属ライナーは爆発で生じた爆轟波*1の進行方向に絞り込まれるように変形、弾丸状となって目標に激突します。強力な貫徹力を持つことが特徴で、装甲車両にとっては脅威となりました。

第2大隊は、2007年6月8日にアル・アミンと呼ばれる地区でこのEFPによる攻撃を受け、さらにEFP爆発後に銃撃されています。
このとき何名かの兵士が死傷していますが、負傷者のもとに駆け寄った同大隊のフランク・ギーツ軍曹がその様子について語っていますので、見てみましょう。
以下、フランク・ギーツ軍曹による述懐。

「俺はアチリーのところにまっすぐに行った。アチリーが血まみれになっていて、身動きせず、そこに座っているだけだったからだ。俺は奴のところに行って、『どうした?大丈夫か?』と言った。すると奴は俺を見て『目を撃ちやがった』と言った。そのときは、奴の目が吹き飛ばされてることがわからなかったので、『大丈夫だ、きっと治る』と言ったんだ」

ギーツ軍曹は、次いでジョンソンという兵士について語っています。

「ジョンソンは死んでると思った。戦死したと思った。それでアチリーのことだけに神経を集中していたら、いきなりジョンソンが呻いたんだ。それで『なんてこった、生きてるぜ』と思って、すぐにジョンソンのところに行った。奴は横向きに倒れていて、手を脇腹の下に入れていたので、その手が吹き飛ばされているとは思ってもみなかった。オレが、『ジョンソン、どうした?ちゃんと言え』と言うと、奴が腕を引き出した。手がすっかりなくなっていた。皮膚の一部と骨しかなかったが、血が一滴も流れていなかった。それでこう思ったのを覚えている。『うわっ、血が流れてない。手が切断されたのに、血が流れていない』それで奴に、大丈夫だ、心配するな、と言ったら、奴はずっと『軍曹、手がなくなっちまったよ。俺の手がなくなっちまった』と言っていた」

さらに、ランカスターとキャンベルという兵士についても。

「『ランカスター、どうしたんだ?』と俺が言うと、奴は、奴は、奴は『腕を撃たれた』と言った。俺が『ひどいのか?』と言うと、『わからない、でも血がいっぱい流れてる』と言った。そして奴が腕を差し出すと、血が噴き出し始めた」
彼はランカスターに止血を施すために大声で人を呼び、もうひとりの兵士キャンベルに目を向けたことを思い出して語っている。
「キャンベルが歩き回りながら、口を大きく開けて悲鳴を上げ続けていた。口の中に爆弾の破片が入っていたからだ。俺は奴に向かって、落ち着け、と怒鳴ったんだ」

以前、銃弾が人体に当たった場合になにが起こるのか書いた記事でも触れたのですが、近年の戦闘では、四肢切断が増加傾向にあります。これは、小銃弾の高性能化やIEDの使用など戦闘の様相が変化したことによるものです。
イラクにおける第2大隊の被害でも、四肢の切断が多くみられます。

2007年6月28日

2007年6月28日、休暇と気晴らしのため、前哨基地から作戦基地へと向かう兵士の車両隊列を狙って、EFPが爆発しました。
ブレント・カミングズ少佐は、報告を受けて救護所に向かいます。

カミングズは救護所に向かった。たどり着いた時、ちょうどダンが救護ヘリで運ばれてきたところだった。
「それで俺は部屋に入っていった。右側にある最初の台にダンがいた。血がまだどくどくと流れていた」後になってカミングズはこう言っている。「俺が覚えているのは、その血のことだ。それから大勢の兵士がそこにいたこと。中に入らないように、テープが張られていたので、みんなそのテープの後ろに立っていた。最後の台にはクロウ軍曹がいた。俺が近づいていくと、医師たちが『よし、もう一度心肺蘇生だ』と言い、衛生兵が彼の胸を押し始めた。俺はなんとか見る場所を確保しようとした。彼の怪我の具合をこの目で確認しようとした。クロウは灰色になっていた。最悪の状態だとわかった。離れたところからでも、足が太腿の真ん中あたりからなくなっているのがわかった。骨と肉が見えた。引きちぎられたような状態で、肉が垂れていた。止血帯が巻かれていたので、腕は見えなかった。しかしその腕がめちゃめちゃになっていることはわかった。医師たちが集まっていた。ブロック医師がいた。デラガルザ医師がいた。衛生兵のひとりが輸血をしていた。衛生兵のひとりが心肺蘇生を施していた……。なんともひどい光景だった。」

クロウ軍曹は蘇生できず、死亡しています。

2007年9月22日

2007年9月に戦死したアメリカ兵の数は43人でした。ただし、この数字はペンタゴンがマスコミに対して発表する「戦闘に無関係な」死者23人が引かれたものです。
上記の43人中、5人は第2大隊の兵士でした。

9月22日、ガソリンスタンドの警備を終えた小隊が、基地に向かって戻る途中、EFPによる攻撃を受けます。2人の犠牲者が出て、1人は瀕死の状態でした。
大隊長のカウズラリッチ中佐は、救護所に急ぎ向かいます。

ひとりの兵士が泣き喚いていた。ハンヴィーの運転手だった。EFPの一部がハンヴィーの下に入り込み、爆弾の破片が車体の床を通って彼の片足の骨を砕き、もう片足のかかとを切り刻んだ。
カウズラリッチが救護所の中に入っていくと、やはり駆けつけたブレント・カミングズがその兵士のところにいき、彼の手を握りしめ、大丈夫だと話しかけていた。「リーヴズはどうしました?」とその兵士が訊いた。カミングズが答えずにいると、さらに「彼の様子を教えてください」と言った。
「いまは自分のことだけ考えろ」とカミングズは言った。
 ジョシュア・リーヴズという二十六歳の特技兵は、地面に描かれた一筋の血痕の先にいた。カウズラリッチが向かっていたのはその兵士のところだった。EFPが爆発したとき、リーヴズは前部座席の右にいた。爆弾のほとんどが彼の横のドアを通って入り込んできた。救護所に運ばれてきたときには、意識不明で脈もなく、医師たちはすぐに彼の処置を始めた。呼吸がなく、目は動かず、左足は失われ、背中はぱっくりと開いて、顔は灰色に変わっていた。腹部は血だらけで、裸で横たわっていたが、血まみれの靴下はそのままだった。そしてジョシュア・リーヴズの命の危機に際して、これだけの損傷でもまだ足りないとばかりに、ロビーに集まっていた兵士たちの数人から噂が伝わってきた。リーヴズは今朝、奥さんから赤ん坊が生まれたという知らせを受け取っていた、と。

リーヴズ特技兵は、一時、蘇生に成功して命を取り戻します。救急ヘリにより、病院に移送され外科手術を受けますが、持ち直すことは出来ず間もなく死亡しました。

最後に

さて、イラクに派兵された米軍兵士が受けた死傷について取り上げましたが、こういった身体的被害に留まらず、PTSDなどの心的損傷を抱えることになった兵士も少なくありません。
続編にあたる「帰還兵はなぜ自殺するのか」では、重い精神的ストレスに苦しむ兵士らや家族の姿が描かれています。

第16歩兵連隊第2大隊が派兵された2007年は、アメリカ兵士の死者が最も多かった年でした。
アメリカをはじめとする各国が、膨大な費用を注ぎ込みまた多大な人的被害を出したイラク戦争は、世界に何をもたらしたのか、その後の経緯はご存知の方も多いかと思います。
ちなみに、甚大な「コスト」に直面したアメリカは、一層「同盟国の活用」なんてことを考えるようになりました。なんというゴーダニズム。

ドイツの世論調査では、アメリカが同盟への貢献度を高めるよう要求していることから、自国に対する最大の脅威がアメリカであると回答した人が多数出ました。
日本の現政権は日米同盟の強化を謳っていますが、日本で、アメリカに対しドイツ国民のような警戒心を持つ人々はどの程度いるのでしょうか。どこぞの与党政治家が「アメリカの若者が血を流しているのに云々」とかわけがわからないことをヌかしてたこともあって、個人的には、無邪気に色々差し出しちゃう薄ら寒い結果しか予想できないのですが、悲観的過ぎますかね…。

 

 

*1:ばくごうは。爆発によって生じる音速を超える衝撃波のこと。